世の中には、驚くほどの聡明な少年がいるものだと感心した体験をしました。 先月末の3日間、趣味の仲間との作品展を開いていたとき、一人の少年が入ってきました。誰かのお孫さんかな、とお互い顔を見合わせたもののそれらしき該当者がいない。少年はおずおずしながら入ってきたものの、やがてゆっくりと作品の前に立ち、一人で眺めているのです。今まで接してきた少年とは一味違う感じです。
一当たり観終わった少年は帰ろうとしたので、もしよかったらお茶とお菓子はいかが?と勧めたら、丁寧に「ありがとうございます」と言って手を添えて頭を下げました。照れるように静かに座って一人でお茶を口に運んでいくのを見て、ぼくは近付いて声をかけました。
「小学生の何年生?」
「4年です。厚別区内の小学校です。」と落ち着いた返答です。
「こんな作品展のあることをよく知っていたね。」と問うと、よくいろんな作品展は見て回っています、という返事。見るのは好きなのだが、別に芸術方面に進もうという気持ちはなさそうでした。
「何か将来の夢でもあるの?」
「ぼくは将来宇宙飛行士になりたいのです。そのために京都大学で物理学を学ぼうと思っています。」
これにまず仰天してしまいました。先の進路まで描いているのです。ぼくは一層興味を持ち、どんなご両親から躾を受けているのかと想像しました。
会話をしているうちに、お父様は昆虫博士として大学の教授らしく、お母様は学校の家庭科の教諭をされている教育一家なのです。この少年も家で「くわがた」を飼っていて、時々動物の動きを見てスケッチしているとの返事でした。
表面だけを見ると、このような夢を持った少年は宇宙飛行士に限らず、野球やサッカーの選手になりたいという夢を抱いて日夜励んでいる少年は少なくないように思いますが、とにかく礼儀正しいことに感心したわけです。
よく今どきの若者は・・・と批判の的になりがちですが、批判されても仕方のない言動は確かに多く、ファストカフェや歩きながらスマホをいじっている姿を見ると、邪魔してやりたいような気を起こさせてしまいますが、どこか即物的に生きているようにしか見えないのです。
そんな中での少年の振る舞いは、久しぶりにさわやかな風を感じたほどでした。手も付けなかったお菓子をお土産に、と勧めると「一つだけいただきます」と遠慮がちに受け取りました。もう一つ足してお菓子をあげたところ、またまた丁寧に頭を下げ会場を出ていきました。
心なごむ一瞬でした。
やさしいタイガー