昨今のニュースを見ていると、日本はいったい先進国か、疑いたくなるようなことが多いことに気づく。たとえば貧困に苦しむ子どもが増加し、対策が十分に行き届いていない現実をしる。悲しいことだ。この国の政治はどうなっているのか、とつい怒りの矢を向けてしまいたくなる。
そんな中で、ほっとするようなニュースが目に入った。かつて幼いころ、児童養護施設で生活をして若者が、大学や専門学校に進み、未来を夢見て励んでいる姿の紹介なのだ。あるNPO法人が5年前から「カナエール夢スピーチコンテスト」を始めていて、学生たちが自分の夢を会衆にに語り掛ける。聴く人々は入場料を払い、その益金が若者の奨学金になるという仕組みにしている。
いわばスピーチコンテストなのだ。多くの児童福祉施設でくらした若者は、なかなか進学もできず、夢もかなえられないと思いがちだ。進学しても学費、生活費など並大抵の努力ではできないハードルがある。奨学金を受けようにも、卒業後返済しなければならないシステムが圧倒的で息苦しい話だ。これが先進国日本の現実だ。
若者たちはそれでも懸命に歩み、未来を考える。ある若者は、育った児童施設の職員になって心で返したいという。別の若者は難民支援の仕事に、看護師に保育士に、と夢を語る。たった5分の中に、ギュッと凝縮して夢を追うのだ。2011年から始まったこのコンテストの特徴は素晴らしい。
出場者は全員、30万円の一時金と、卒業するまで毎月3万円の奨学金を受け取る。返済は不要だそうだ。もちろんそれだけで生活を賄うのは難しいのでアルバイトをしながらではある。 これを支える人々がいて、寄付を募りながら運営をしているようだ。
現在、児童養護施設は全国に約600あり、3万人が暮らしている。札幌にもある。だが、施設を出たからと言って独立してはやっていけない。大きな不安を抱えながら日々を送り、時には未来に希望を持てないと悩んでいる若者は多いに違いない。札幌には、こうしたコンテストの機会があるのかどうかは知らないが、どこか冷え冷えした空気の中で、一輪の花のように思え、自分も何かお役にたてる機会はないものか、と考える。
たった2割程度の進学率だと報じていたが、上記のような経費の必要性から、せっかくの夢をかなえぬまま進学をあきらめる若者が目の前にいることを知らずにいることは大人の恥じかもしれない。そう思ったのである。
やさしいタイガー