啓蟄

　Hさんは離婚してから約20年間一人住まいだ。仕事はバス会社の運転手。

　私 「久しぶりやね」
　客H「家にこもっててん」
　私 「引きこもりかいな」
　客H「子供じゃあるまいし引きこもりと違う。会社は行ってるで」
　私 「ほんだら何で家にこもってたん？」
　客H「寒かったから飲みに出えへんかったんや」
　私 「啓蟄やな」
　客H「そうや虫と一緒に温くなったから出てきてん。しやけど長い事喋れんかったら言葉を忘れるわ」
　私 「無人島の生活じゃあるまいし、会社でしゃべれへんか？」
　客H「仕事は臨海の企業送迎バスの運転手やから『こんにちわ』ぐらいしか喋られへんねん」
　私 「余計な事は喋られへんのんかいな。家では一人やし寂しいなあ」
　客H「家にはインコがいてるけどな」
　私 「インコウ？」
　客H「淫行と違う、インコや」
　私 「インポ？」
　客H「それ、マスターや！」
　私 「インコは『こんにちわ』しか喋れへんて言うてたなあ」
　客H「ほんだら俺はインコと一緒やなあ」
　私 「インコと因業(ｲﾝｺﾞｳ)おやじ、気が合うやん」
　客H「因業おやじてなんや?」
　私 「片意地なおやじ。Hさんの事や」
　客H「当たってるだけに、返す言葉がないわ」

 

　謎かけ：啓蟄とかけて、NHK連続テレビ小説『朝が来た』の主人公は？と解く。どちらも(春・波瑠)になりました