今年5月の
ある姑と嫁の会話
姑
「私、スィミング・スクールに
行こうと思うの」
嫁
「お義母さん、私も大賛成です。
私、義母さんの元気な顔を見るのが
大好きだから!」
翌日から、姑は25mプールで
泳ぎを練習することになり、
そして、一月後の6月のこと
姑
「私、10m泳げるようになったわよ」
嫁
「お義母さん、凄ーい!
これからも、頑張ってねっ」
そして、更に、一月後の7月のこと
姑
「私、20m泳げるようになったわよ」
嫁
「お義母さん、本当に凄ーい!
もう少しで25m。
ターンができるように頑張ってね
泳ぎ始めて、たった三か月。
私、信じられないわ」
嫁は自分でそう言っておきながら、
益々、元気になっていく姑を横目に
心中、嫌な予感を感じていた
姑
(腹の中で)
「フン、何が
『義母さんの元気な顔を見るのが大好き』
よ、本当は
『早く、くたばれ!』
と思ってるくせに
ホント、嫌な嫁だこと。
こうなりゃ、50mを泳げるまで
死ぬ気で頑張ったら、
嫁の望み通りに一度、
本当に死んで見せて
三途の川のあの世の岸まで
泳いだら、
そこで思いっきりターンして、
この世の岸までたどり着き、
泳ぎで鍛えたこの足で
棺桶の蓋を蹴とばしたら
仁王立ちに起き上がり、
涙を拭くふりをして喪服の袖で
笑いを隠す嫁を、思いっきり
驚ろかしてやろうじゃないの!」
嫁
(腹の中で)
「こんなに元気になるなんて。
こんなことなら、
水泳なんか勧めなきゃ良かったわ・・」
姑
(腹の中で)
「先に逝ったお父さんと先妻、
そして後妻の私が、
飲まず食わずで働いて
爪に火をともす暮らしの苦労もいとわず
残した財産を、
こんな嫁になんか、
びた一文、渡すもんか!」
嫁
(腹の中で)
「早く、くたばれ!
この強突(ごおつ)くババー」
姑
(腹の中で)
「嫁より先に、逝ってたまるか!」
そして、迎えたある日
近所の人たちの声
「スイミング・スクールで溺死した
奥さんが突然、
奇跡の生還を果たしたお葬式の後で、
今度はお嫁さんのお通夜だって」
「なんでも、
ショックによる心臓発作の
突然死だったそうよ」
「本当の親子みたいに、
仲の良い二人だったのにねぇ・・」
夏の暑さはすっかり影を潜め、
秋の気配漂う、八月晦日(みそか)の
ことだった。
「You Only Live Twice」
映画「007は二度死ぬ 」
主題歌
唄:ナンシー・シナトラ