部長「ご苦労さん、ところでどうだい今日の仕事は?」
主任「どうも、お疲れ様です」
部長「結婚式と間違えるぐらい賑やかな葬儀だなぁ、今日は」
主任「はい、何でも仏さんの遺思で
『葬儀の間は、生前好きだったCDをずっと流してくれ』
の遺言らしく、お通夜の昨晩からこの調子です」
部長「賑やかな割には、やけに弔問客が少ないなぁ。
ところで肝心のお坊さんは?」
主任「さっき、怒って帰ったところです。小国に」
部長「どうしてっ」
主任「これも仏さんの遺言で、
『読経はテイク・ファイブ風に、5拍子の変調にしてくれ!』
と言うんでお坊さん、早速その曲を聴いたんですが
『特別料金でも出来ん、坊主を馬鹿にすんなっあ!』
と言って怒って帰りました。小国に」
「それで『お坊さんの居ない葬式じゃ格好がつかない』
と親族がもめて、誰かが急いで家に帰り、持ってきたのが、
仏さんが生前愛用していたと言う、
ほら、今CDを掛けているステレオあの「BOSE]。
「そのBOSEを持ってきた時に、
丁度、気を取り直したお坊さんが帰って来たんですが、
タイミング悪く、丁度その時に流れていたCDの曲が
映画『ブルース・ブラザース』の教会のシーン。
ゴスペルの『ハレルヤ、ハレルヤ』のコーラスが
葬儀場に響きわたる真っ只中。
それでお坊さんは『馬鹿にするのも加減がある』
と、本当に怒って帰ってしまいました。小国に」
部長「派手な花祭壇にあるあの置物は?」
主任「これも仏さんの遺言で
『祭壇はサージェント・ペパーズ・ロンリィ・ハート・クラブバンド
のジャケット風にすること』
と言うので、とりあえず『福助』だけ置いています。
『死人に目なし』です。誰にも判りません」
部長「ところで、あそこに座っている喪服の似合うご婦人は?」
主任「あの人が喪主で未亡人のスージィーさんです」
部長「ずっと、うつむいたままで肩を震わし、時々、顔にハンカチを宛て、
余程、最愛のご主人を亡くして悲しくて泣いているんだろうな」
主任「泣いているのは確かですが、あれは嬉し泣きです。
最初『急なんですが、夫の葬儀の手配をお願いします』
と、電話を頂いた時からあの調子なんです」
部長「仏さん、急だったんかい」
主任「奥さんがおっしゃるには、何でも趣味で集めていたCDとDVDを
急に整理するとかで2階に上がり、『ドスン』と大きいが音がして、
そのまま帰らぬ人となったそうです。
部長「そりゃ、又、急なことで」
主任「仏さん、正月に田舎であった還暦式典の後からこっそりと、
遺言書をしたためていたらしく、遺書には
『俺の葬式には、好きだったCDを葬式中ずっと流すこと』
と書いてあったらしく、
奥さんは、仏さんの遺言をちゃんと守ってあげているんです」
部長「仏さん、わがままでも結構愛されていたんだぁ」
主任「いや、とんでもない。娘さんが言うには
音楽は聴いても。人の言うことは聴かなかったらしいです。
ここだけの話ですが、結構どころか、かなりの嫌われもんです」
娘さんの旦那さんが言ってました『逝ってよかった』って」
部長「それにしても、ここにあるCD,名盤揃いだなぁ」
主任「弔問に来てくれた方に好きなものを仏さんの
肩身に持って帰ってほしいと、並べているんですが、
さっき、お孫さん二人がビートルズの
あのデジタル・リマスター版を 『円盤だっ!』
と言って飛ばしあいこしてるんです。あの名盤をですよ!
驚くのは誰も止めないんです」
仏のいとこのモーリーさんは
『この反射具合は、田んぼの雀を追っ払うのに丁度良カバイ』
と言って、シナトラやらベネットのCDを100枚ほど
軽トラックに積んで喜んで帰りました。小国に」
部長「そろそろ、出棺だな」
主任「さっき、娘さんから聞いたんですが、仏さんの火葬の後、
美味しい宮崎牛の店があって、親族は仏さんを焼いた後、
今度は牛肉焼いて大パーティだそうです。
葬儀に来なかったミッシェルさんもこのパーティには参加するそうです」
部長「弔問客も少ないから、俺、帰る」
主任「ここにあるCD全部捨てますよ」
「お疲れさんでしたーっ!」
故人が愛した、ロック史上最高の名曲
Beach Boys - Good Vibrations