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進行膵臓癌における多剤併用化学療法:白旗を揚げる時か?

2007-06-03 | 膵臓癌
Journal of Clinical Oncology 6月1日号論説から要約して紹介(Dr.ちゃしば翻訳文をもとに要約)

ゲムシタビン(ジェムザール)は1997年以来、進行膵臓癌における標準的な緩和化学療法でありつづけている。これは症状を有する進行膵臓癌126例をゲムシタビンとフルオロウラシル(FU)のいずれかに割り付けたランダム化第3相臨床試験によって確立された標準治療である。ゲムシタビンはFUに比較して1年生存率(18% vs 2%)と臨床的な奏効(24% vs 5%)の改善に相関していた。 
本号でHerrmannらは、進行した病態に対してゲムシタビンとカペシタビン併用とゲムシタビン単独での比較を行った別の同様な臨床試験を報告している。---多剤併用化学療法に関する以前のあらゆる臨床試験と同様、この臨床試験は進行した膵臓癌における全生存率の改善という主要エンドポイントを達成できなかった。
多剤併用化学療法の大規模ランダム化臨床試験が連続して失敗していることから、以下の疑問が必然的にわいてくる。すなわち、なぜこれらの臨床試験が否定されたのか?固形癌のうちで最も悲惨な臨床研究の我々のアプローチを再検討すべきなのであろうか?ゲムシタビンとFUは膵臓癌の化学療法薬剤としてもっとも広く持ちいられてきたものである。それゆえ、どちらかの薬剤単独よりは有効性があるだろうという希望でそれらを併用する根拠とされた。---生存時間の中央値はゲムシタビン単独が5.4ヵ月に対してゲムシタビンとFUの併用では6.7ヵ月で(P = .09)、1年生存率は同等、しかし無進行生存期間は2.2ヵ月に対して3.4ヶ月と改善を認めた(P = .02)。論文の考察では、著者らはこれら2つの薬剤の投与スケジュールをさらに改良することは可能であるかもしれないが、『それらの変更だけで膵臓癌の治療を有意に改善するとは考えにくい。』とし、さらに『臨床試験のリソースは他の併用療法や新たな薬剤を扱うべきだ』と述べている。その後の臨床試験結果は彼らの結論をおおむね裏付けるものであった。---
フッ化ピリミジンと同様、イリノテカン、ペメトレキセド、オキサリプラチンといった他の細胞毒性薬もゲムシタビンとの併用では生存率に有意な影響を示すことができなかった。
この併用化学療法の開発は、2剤併用や3剤併用における併用薬剤としてゲムシタビンが適切なのかどうかや、緩和医療としての状況でもうひとつの薬剤を加えることで毒性を増加させてしまうこと、そして進行した病態に対しての第2相臨床試験に局所進行病変の症例が入り込んでしまうといったような、別の潜在的な問題を示した。オキサリプラチンとの併用で投与できるゲムシタビンの用量強度は単剤として投与される場合の約50%であり、ゲムシタビンで使える用量の減少によって、オキサリプラチンを加えることによるほんのわずかな改善にも相反するものである。---
---確かに今日までは膵臓癌における標的治療の結果は満足いくものではなかった。ゲムシタビンとベバシズマブの併用は---第3相臨床試験ではゲムシタビン単剤以上の有効性が示されなかったことが公表された。ゲムシタビンと経口の上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬であるエルロチニブの併用は、ゲムシタビン単独と比較して全生存率において統計学的に有意な改善を示したはじめての併用レジメンである。ハザード比は0.81でこれは全生存率で言えば23%の改善に対応する。しかし、これは生存期間での絶対差としては1ヵ月以下、1年生存率の絶対差では6%にすぎない。モノクロナール抗体であるセツキシマブを用いた2つめのランダム化臨床試験が来年報告されるだろう。<注:下記参照>論議されていることではあるが、生存期間中央値があまりに短い疾患では、もし統計学的有意差を示すためにランダム化された症例数が600例必要であるなら、その臨床的な有意差については異論が出てくる。---進行膵臓癌に関しては、何が臨床的に意味のある違いを示しているのかについての討論に集中するために、肯定的な結果が臨床的に重要性を持つ、より小さなランダム化臨床試験に立ち返る時期である。

だから、この10年間の膵臓癌の臨床試験は無益だったのか?この疑問に対する答は明らかに『否』である。我々は切除可能病変では補助療法によって生存率が向上することを示してきた。我々は進行した病態でも1年生存率を2%から25%へと改善させたし、特殊な疾患としての膵臓癌の理解を深めてきた。我々が将来の疑問にうまく応えることができるように臨床試験の基盤整備も行ってきた。しかしながら、そろそろ我々は剣を置き、細胞毒性薬の併用についてさらに評価することでは将来は見えてきそうもないと敗北を認める時期である。

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参考:タルセバ記事
【6/6追記】ASCO総会で、大規模ランダム化第3相試験の結果、膵臓癌の第1選択治療としてゲムシタビンにセツキシマブを加えても、恩恵はなかったたと発表。記事


2 コメント

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考えさせられます (Setochan)
2007-06-04 17:46:45
このeditorialは読んでいましたが,本当に考えさせられるものでした。
 cytotoxic drugはあまりいい結果は得られていませんが,膵臓がんでも予後の良い方がおられます。
 このeditorialでも触れられていましたが,化学療法や放射線療法に感受性が悪いと考えられていた腎細胞がんの治療もネクサバール,スニチニブなどの分子標的治療薬で少しずつ治療が前進しているような印象があります。
 肝細胞がんもRafという分子が関与すると推定され,ネクサバール,スニチニブなどの分子標的治療薬の検討が進んでいます。
 膵臓がんも化学療法は限界はありそうですが,ワクチンなど何か他のアプローチがあるかもしれないという期待を持ちながら,患者さんに役立つ治療法を心待ちにしたいですね。
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厳しいですが ()
2007-06-05 16:23:02
腎細胞癌、肝細胞癌や他の癌同様に、膵臓癌も研究はどんどん進められているので、突破口となるものも近い将来現れると信じたいです。そのための研究であり、医学の進歩なので。

でも、事実は事実として、その敗北を認めることから新しいアプローチの方向性が見えてくると示唆した論評と考えます。
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