現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

小川洋子「帯同馬」いつも彼らはどこかに所収

2017-03-10 10:18:12 | 参考文献
 スーパーで試食品のデモンストレーションをすることを仕事にしている主人公の女性と、スーパーをぐるぐる回って何度も試食を食べにくる小母さんとの、奇妙な友情を描いています。
 表題は、凱旋門賞への遠征でディープインパクトに帯同したピカレストコートにちなんでいます。
 主人公はモノレール(車内から飛行機と競馬場が見えるので羽田と浜松町を結ぶ東京モノレールだと思われます)の軌道の外には出られない(他の乗り物に乗ると不安から体調を崩してしまいます)のですが、世界中を旅したという虚言癖のある小母さんの帯同馬としてならば、どこかに飛びたてるのではないかと夢見ます。
 もちろん、現実には、モノレールから見える競馬場は地方競馬の大井競馬場なのでディープインパクトやピカレストコートとは関係ありませんし、ディープたちが出発したのも羽田ではなく成田です。
 でも、そんなことはどうでもいいのです。
 飛行機と競馬場とフランス遠征の帯同馬が、モノレールに乗った主人公の中で、一つに結びついたのです。
 主人公、小母さん、ピカレストコート。
 小川は、彼ら誰の目にも止まらない人びと(馬もいますが)に優しいまなざしを向けています。
 児童文学で弱者への視線というと、他の記事でもたびたび書きましたが森忠明の作品群が思い起こされます。
 現在の児童文学では、こういった滋味に富んだ作品は出版されなくなって久しいです。
 いっそ小川洋子に、現代を生きる子どもたちに向けたこのような作品を書いてもらえないかとも思いますが、おそらくあまり売れないでしょうから実現は難しいでしょう。

いつも彼らはどこかに
クリエーター情報なし
新潮社

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