現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

舟崎靖子「とべないカラスととばないカラス」

2021-03-22 13:58:34 | 作品論

 作者と飼っていた四羽のカラスとの交流を描いた作品です。
 児童文学評論家の藤田のぼるは「「現代児童文学史ノートその5」日本児童文学2013年9-10月号所収、(その記事を参考にしてください)」の中で、長い引用も含めてかなりの紙数を割いて取り上げ、八十年代の児童文学の変化を示す例として以下のように述べています。
「いささか強引な説明になるが、このカラスと作者の関係を、子どもと(児童文学の)作者というふうに置き換えてみる。子どもに仮託しつつ、子ども自体の姿をも受け入れ、描いていく。この自在さというか、壁の薄さというかは、六〇年代はもちろん、七〇年代の先にあげたような小説的な作品とも一線を画すものだった。それを象徴するものとして端書きを引用したのだが、六〇年代、七〇年代の児童文学が前提としている「子ども」観との違い、大人と子どもとの関係性ということの捉え方の違い、ということがそこにはある。ある意味で子どもというものを疑い、一方で子どもというものを信頼している。そうしたありようの上で、この作品はぎりぎりのところで児童文学として成立しているように思えた。こうした説明では、うまく伝わらないだろうが、この路線の上に八〇年代末に登場した石井睦美や江國香織を置けば、ある程度イメージしてもらえるのではないか。」
 しかし、この作品はタイトルは思わせぶりですが、藤田が言うようなたいそうなものではなく、「動物と人間のふれあいをとおして、命の尊さを語り、子どもたちに生き物を大切にする心を養います。」という教育的配慮のもとに企画された「わたしの動物記」という、当時の一線の児童文学作家に依頼されたシリーズものの一冊でしかありません。
 作者たちも気楽に書いたと思いますし、あまり評判にもならなかったシリーズだったと思われます。
 作者ならば他にもっと重要な作品がありますし、八十年代の代表作として取り上げるならば他にもっと適当な作品がたくさんあります。
 しいていえば、この時期(八十年代中ごろ)の児童文学の多様性を示すとともに、児童文学の読者が子どもから若い女性たちに広がってきたことを示す作品なのかもしれませんが。

とべないカラスととばないカラス (1984年) (わたしの動物記)
クリエーター情報なし
ポプラ社
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