現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

用心棒

2018-06-05 15:12:02 | 映画
 黒澤明の作品の中でも、最も娯楽色の強い作品のひとつでしょう。
 ふらりと宿場に通りかかった風来坊の浪人が、宿場を二分して争っているやくざ集団の、どちらかに加担すると見せかけてうまくあやつり、最後はどちらも全滅させます。
 主役の三船敏郎はもちろんですが、志村喬、加藤大介などの黒澤映画おなじみの俳優たちが、個性豊かな悪人たちを演じています。
 中でも、まだ若手だった仲代達矢が、妙な色気を持った伊達男の悪党を演じて、むさくるしい感じの主役の用心棒と好一対で作品を盛り上げています。
 その後、イタリアで「荒野の用心棒」という西部劇に無断でリメイク(その後、オリジナルの配給元の東宝が、裁判に勝訴しています。)されて大ヒットして、マカロニウェスタンと言う新ジャンルを確立したのですから、この作品のエンターテインメント性がいかに優れていたかがわかります。

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石井直人VS宮川健郎「『ズッコケ三人組』とは何か」ズッコケ三人組の大研究ファイナル所収

2018-06-05 08:03:40 | 参考文献
 三冊組の「ズッコケ三人組の大研究」のファイナルで編者の二人が、「ズッコケ三人組」シリーズ五十冊完結を受けて対談をしています。
 「ズッコケ三人組」シリーズは、作品の中での時間が進行しない「循環型」の典型だけど完結篇の「ズッコケ三人組の卒業式」では、作品の中での時間が進行していく「進行型」になったことを指摘しています。
 「循環型」はまんがやアニメでは常套的なやり方で、「サザエさん」や「こち亀」など、長期間続く一話読みきりの作品はみなこのタイプです。
 また、「コボちゃん」のようにネタにつまると、その時だけ「進行型」に変えて小学生にして妹の「ミホ」ちゃんという新キャラクターを登場させてプロットを複雑化させることも行われます。
 そのあたりは、児童文学研究者の佐藤宗子が、「幼年童話における「成長」と「遍歴」」(その記事を参照してください)という論文で、松谷みよ子の「モモちゃん」シリーズを中心にして詳しく解析しています。
 「ズッコケ三人組」シリーズの中では「子どもの遊びの世界そのものが全体になってしまったような作品」が子どもたちは好きだという分析がありますが、これもまんがやアニメの世界では常識で、その作品が人気がなくなると(児童文学と違って商品性にシビアな世界なので、読者投票や視聴率といったリアルタイムで客観的な尺度があります)スポーツものなら試合のシーン、ヒーローものなら戦闘シーンを多くする(特にトーナメント方式がうけます)のがカンフル剤として有効だと言われています。
 石井は、「『ズッコケ三人組』の児童文学としての特徴」として、以下の八点をあげています。
1.キャラクター(平面人物)(ここで平面人物とは、例えばハチベエならおっちょこちょいという面だけを造形した人物をさします)
2.漫画家・前川かずおの絵
3.シリーズ・フィクション
4.循環型(進行型ではなく)の時間
5.空想物語と日常物語
6.社会問題
7.三人称の客観的な文体
8.基本形としての探偵小説
 このうち、1から5はすでにマンガの世界ではすでに行われていたことであり、そういった意味では、「ズッコケ三人組」シリーズでは、「文字で読む」マンガというエンターテインメントの新しいジャンルを1978年に確立し、出版バブルであった80年代、90年代に爆発的にヒットし、多くの後継シリーズ(一番成功したのは「ゾロリ」でしょう)を生みだしたのです。
 6については、「ぼくらは海へ」などのシリアスな児童文学も書く那須正幹ならではの大きな特徴ですが、「教訓臭くなる」というもろ刃の刃でもあったと思われます。
 7は、1から5のマンガ化を文体として支えているわけですが、2000年代になると読者がついていけなくなっていたかもしれません(「ズッコケ三人組」シリーズは2004年で終わっていますし、友人のエンターテインメント作家によると、男の子より読書力のある女の子向けでもオーソドックスなラブコメは最近パッタリと売れなくなっているそうです。現在は、もっとキャラを強調し、文章もアニメのセリフ調の作品が、児童文庫を中心に売れ筋の主流になっています)。
8.に関しては、「ズッコケ三人組」シリーズが登場する前にエンターテインメントとして読まれていたのは、ルパンやホームズや少年探偵団といった子供向けの探偵小説だったので、まさに「ズッコケ三人組」シリーズはその後継者として王道をいっていたわけです。
 石井と宮川は、「ズッコケ三人組」シリーズの登場人物をアンチ・ヒーロー(弱点を持っているゆえに読者に親近感を抱かせる)に分類していますが、これもマンガの世界ではドラエモンののび太くんを筆頭にすでに確立されていました。
 以上のように、「ズッコケ三人組」シリーズは、「文字で読むマンガ」として大成功をおさめたわけですが、いつも疑問に思うのは、それならなぜ子どもたちはマンガそのものを読まずに、「ズッコケ三人組」シリーズを読むのかということです。
 それに対しては、「「マンガ」だと親に怒られるけれど本だと買ってもらえるから(親がマンガよりましだと思っている)」とか、「マンガのようだけど、それでも一冊の本を読んだことになるから(読書や読書感想文のノルマが教師などによって課せられている)」といった消極的理由がよく述べられますが、「文字で読むマンガ」ならではの魅力や読書動機について、ここでも言及がなく残念でした。
 エンターテインメント作品を正しく評価する上で、この疑問は非常に重要だと思っているので、これからも考察を重ねていきたいと思います。

ズッコケ三人組の大研究ファイナル―那須正幹研究読本 (評論・児童文学の作家たち)
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