God is in the details ~神は細部に宿る~

一箱古本市専門店《吉田屋遠古堂》主人のぐうたらな日々。。。。

な、なんと!アメリカ人だったとは!!!

2005-12-29 21:45:38 | その他
 さて、今回はイギリス民謡の話です。一部で盛り上がっているVashti Bunyanを含むフォークについては、次回以降に取り上げる予定です(笑)あと、アイリッシュは好みじゃないので、触れません。

 フォークソンングというと皆さんは何を思い浮かべます?四畳半?友よ?それともタカダワタル??はたまたボブ・ディランかな?私の場合はマーティン・カーシーです。誰だかわからないって?ではこれからゆっくりと(笑)その話をしましょう。

 イギリスにはフォークソングの伝統があります。最初に大きなくくりを説明しますと、今回のテーマであるトラッド系フォークと次回のテーマ(予定)である非トラッド系フォークがあります。トラッド系のミュージシャンたちはもちろんイギリス古来の(でもないけど)伝承歌謡(バラッド)をレパートリーの中心としており、非トラッド系はSSWを含めいわゆる「フォークソング」を歌う人たちです。しかしながら、曲には伝承歌謡かそうでないものか厳然とした区別がありますが、歌う側は一部のミュージシャン以外はそれほど区別をしていません。トラッド系シンガーのなかには伝承歌謡と区別がつかないほどの作品を生み出す人も珍しくありません。
 ところで、実際にはイギリスではどちらも「フォーク(ソング)」と呼ばれており、「トラッド」といっても通じません。日本で伝承歌謡を「トラッド」と呼ぶのは、曲のクレジットに「Trad.」と表記されていることに由来します。なので、ここではフォークとトラッドを使い分けていきます。

では、いざ奥深きブリティッシュ・トラッドの森へ・・・



土壌
 イギリスでは、家族で歌を歌います。ことある毎に歌います。そして子から孫へと歌い継がれています。それを生業としている家族もいます。有名なところではウォーターソンズやコパーファミリーでしょうか。アーサーファミリーなんてのもいるらしい。
 なかには中世から歌い継がれている俗謡もあります。当然、それらの歌は口承されていくものですし、一子相伝なんかではもちろんないため、時には時代に合わせて脚色され、合体させられたり分割させられたり、入れ替わったりしながら一部は広がってゆき、多くは細々と伝承されていきました。これに注目したのはハーバード大学の文献学者であるF.J.Child教授です。時は19世紀の末、教授はイギリスを歩き(多分)たくさんのバラッドを採取し、それを5冊の本にまとめました。
            

 かれは文献学者であったことから、膨大な数のバラッドを分類し、整理し、バリエーションを体系的にまとめあげました。この文献はイギリスにおいては音楽史の基礎となっており、いまだに多くのトラッドは彼の付した整理番号をもって、チャイルドのNo.○○と呼ばれていますが、まさかチャイルド教授がアメリカ人だったなんて!!!しかしながら、彼はまた文献学者ゆえに歌詞の分析に労力の大半を費やしており、そのメロディについてはそれほどこだわってはいなかったようです。


 さて、時は19世紀末、ここで重要な人物があらわれます。その名はCecil Sharp卿!かれもまた、精力的に多くのバラッドを採集し、母国の伝統のためにその資料を役立てようと考えました(多分)。いまだにCecil Sharp Houseはブリティッシュトラッドの聖地であり続けます。ここにおいて初めて伝承音楽が文化としてイギリス国民に認められる基礎が出来たのです(拍手)

 20世紀に入ると、産業革命以降近代化を推し進めていたイギリスでは多くのものが失われていきました。ここで登場するのがトラッドの神様A.L.Lloydその人であります。彼もまた一つでも多くのバラッドを後世に残そうと、更なる探求を続けました。ここまでは前出の二人とかわりませんが、彼はさらにバラッドを「資料」や「文化」ではなく、本来の形であるうたとして復権させたのです。もちろん、まず自分で歌います。
        
これは一時期捕鯨船に乗り組んだ経験をいかして(笑)吹き込んだ鯨とりにまつわるバラッド集です。
そして、人にも歌わせます。たとえばアン・ブリッグズ。彼女はロイド先生の秘蔵っ子で、産業革命の頃に歌われた労働歌を集めた 「Iron Muse」
やイギリス唯一の「春歌」集である
「Bird in a Bush」
を経てだされた初のソロアルバムは感動的な一品です。

 こうして始まった活動は、イギリスの音楽的土壌に根をはりめぐらせ、着実に広まってきました。こそして1960年の後半には、フォーク・リバイバルとよばれるムーブメントとなってイギリス全土を覆い尽くすのです!!
<つづく>