net news 「老後資金3000万円」は毎月いくらの貯金でつくれるか? (ダイヤモンド・オンライン岩崎淳子2018/03/25)~
「節約してるのになかなかお金が貯まらない……」「老後の資金づくり?何もやれていないんだけど……」「資産運用の情報が多すぎて、何から手をつければいいのか……」そんな家計の悩みをお持ちの人も多いのでは?ずぼらな人でも簡単にできる「家計システムのつくり方」を解説した、ロサンゼルス在住のFP主婦・岩崎淳子氏の最新刊『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』より、内容を一部抜粋してお届けする。
それぞれの資産にはそれぞれの「役割」がある
みなさんの家計をバランスシートで表してみた場合、左側の資産の項目には、預貯金、外貨預金、株式投資、終身保険、学資保険、家、自動車など、いくつかの資産が入っていると思います。「資産が資産を生むしくみ」=資産形成エンジンを最適化するときは、これらのパーツ(=資産)を次の2つの視点で整備していきます。
視点(1)資産の機能に沿った正しい使い方がなされているか視点(2)安定してお金を生み出す資産が組み込まれているか
今回は(1)資産の機能について解説しましょう。それぞれの資産にはそれぞれの得意分野・不得意分野があります。たとえば、現金の得意分野は、すぐに支払いに使えることです。もしも支払いが必要になれば、お財布から取り出して、相手にお金を支払うことができます。
逆に、家という資産は、生活スペースの確保という大切な役割がありますが、お金にはなかなか替えられません。いますぐお金が必要だというときに、家を売ってお金を用意しようとする人はまずいません。買い手がつくまでにはしばらく時間がかかるでしょうし、いろいろな手続きもしなければならないからです。このような「換金のしやすさ」のことを流動性といいます。流動性の高さは現金の最大の強みであり、「いつでもすぐに使えること」こそが現金のすぐれた機能なのです(一方、家という資産の流動性はそこまで高くはありません)。
資産形成エンジンを構築し直していく際には、それぞれの資産が持っている特性に応じた使い方をしなければなりません。資産の適材適所を考えるときに、私たち日本人が最もミスを犯しがちなのが預金と保険です。ひとまずは預金にフォーカスしていくことにしましょう。
生活費6ヵ月以上の預金は「貯めすぎ」である
以前の連載記事でも触れたとおり、私たち日本人は世界でも屈指の預金好きです。金融資産の51.5%という大きな割合が現預金で占められているのは、先進国では日本くらいでしょう。日本人のコツコツ貯める粘り強さは、世界に誇れるものだと思います。
※参考記事「貯金オンリー」は世界の非常識!?知識のある家計は7年半で2000万円を倍増させる
ただし、ゼロ金利の時代が長く続いている日本では、預金には「お金を生み出す機能」がほとんどありません。つまり、資産形成エンジンとしては役に立たないというのが実情なのです。その結果、コツコツと預金をする日本人の「粘り強さ」が、かえってアダになってしまっている側面もあるのです。
預金の最大の機能は、現金とほぼ同等の流動性、つまり、必要なときにいつでも支払いに使えることです。銀行のATMに行けば、すぐに現金として引き出せますし、スマートフォンを操作するだけで、ほかの人にお金を送ったりすることもできます。
この本来の機能に立ち戻った場合、全資産の50%以上を預金で持っておくのは、どう考えても賢明ではありません。預金額は「現金アクセスが必要になりそうな程度だけ」に抑えておき、それ以外はほかへ回すのが合理的でしょう。
「現金アクセスが必要になりそうな程度」を考えるときに、私が実際のマネーアドバイスで目安としてお伝えしているのが、「基本生活費の6ヵ月分」という数字です。
基本生活費とは、最低限の生活をしていくのに必要なコストのことで、レジャーや趣味などのいざというときにカットできる分は除きます。「急に働けなくなった」「車が故障して修理費がかかった」「屋根が壊れて対処が必要になった」など、なんらかの不測の事態が起きたときでも、基本生活費の6ヵ月分があればまず慌てずに済みます。預金はあくまでも「緊急時のためのプール金」なのです。
言い換えれば、6ヵ月分を上回った預金額がある家計は、端的に“貯めすぎ”です。預金が持っている本来の機能を果たせずに遊んでいるお金があるということですね。
もちろん「6ヵ月」はあくまで目安ですから、持病を患っていて働けなくなる可能性が高い方、薬や治療代がかさむ可能性が高い方、親御さんの介護が必要な方は、この緊急費用をもう少し多め(たとえば9ヵ月分、12ヵ月分)に設定しておくといいでしょう。肝心なのは、そのラインを自分なりに定めておくことです。
また、「家の外壁の定期的な塗装」だとか「クルマの買い替え」などの費用に「緊急時のためのプール金」をあてるのは間違いです。なぜなら、これらのコストは発生することがあらかじめわかっているからです。短・中期的に見通しがつく費用は、定期預金に入れるなど、別枠で貯めておくといいでしょう。これは“貯めすぎ”にはカウントされません。
なお、がんばって節約をしてコツコツと預金してきたのに、貯めすぎと言われてしまった方も(ちょっとショックかもしれませんが……)心配は無用です! そのお金は、これからパワフルな資産形成システムをつくっていくときに、必ず役に立ちます。その詳しい方法は書籍『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』でもご紹介しておきました。
預金だけで「走り切る」のはかなりシンドい……
「なんとなくわかりましたけど、やっぱり預金がいちばん落ち着くんですよね……」
ここまでの話を聞いても、まだそういう気持ちの人のほうが多いはずです。ところで、みなさんは「老後にどれだけのお金が必要か?」を考えたことがありますか? これについては、日本でもいろいろな見解があるようですし、各人のライフスタイルによって左右される部分もあるでしょう。ただ、いくら必要になるとしても、正しい行動を取るためには、次のような考え方を頭に入れておけば十分です。
いま35歳のFさんが、これから65歳までの30年のあいだに、老後資金3000万円を貯めたいとしましょう。このとき、月3万円の預金だけで3000万円をつくろうとすると、どんなことになるでしょうか?(なお、利回りはゼロで計算しています)
3万円×12カ月×30年=1080万円
ご覧のとおり、月3万円の預金では3000万円の目標には遠く及びません。ためしに預金額を月5万円に増やしても、合計額は1800万円……なかなか大変ですね。では、預金だけで3000万円を貯めるには、月々いくらを積み立てていけばいいのか?
……答えは月額8万4000円です。
8万4000円×12カ月×30年=3024万円
問題はそんな額を毎月貯められるかどうかです。ある程度の年収がある人でも、月8万円以上となると、なかなか厳しいのではないでしょうか。老後資金の1つの基準とされる3000万円ですら、預金だけで賄おうとするのは、あまり現実的ではないのです。
そこで必要になるのが、一定の利回りを生み出していく資産形成エンジンです。「毎月積立額」と「30年間の平均年利」を掛け合わせて、30年後の資産額を計算してみましょう。
たとえば、「月3万円の積立額を年3%で運用した場合、30年後には1748万円」になります。
積立額が月1~2万円のレベルでは、かなり運用がうまくいっても3000万円はなかなか難しいということがわかりますね。月3~5万円のレベルだと、5%くらいの利回りを出せれば目標達成できますし、月6万円以上になると数%以下の利回りでも達成はある程度見込めます。
リスクを取らなくていいのは「お金持ちだけ」
「でも、利回りが高いということは、リスクがあるということですよね? 元本割れするようなリスクを取れるほどお金持ちじゃないから、預金を選んでいるんですよ!」
みなさんのそんな声が聞こえてきそうです。しかし、それはほんとうでしょうか?
たとえば、もしあなたのご家庭が、月8~9万円の積立額を継続できるほど豊かなのであれば、利回りゼロの預金だけでも3000万円は貯められます。しかし、もしそれ以下の積立額しか出せないのであれば、「利回りを上げる」以外に、何か目標達成の方法があるでしょうか?
そう、「元本割れのリスクを取れるのはお金持ちだけだ」というのは、日本人の典型的な思い込みです。むしろ、真実はこれと正反対であり、「元本割れのリスクを取らなくていいのは、利回りがゼロでも十分貯められるお金持ちだけ」です。
お金が無尽蔵にあるわけではない“ふつうの人”は、それなりのリスクを取りながら、一定の利回りを確保していかない限り、最低ラインと言われる3000万円すらつくることができないのです!
……という話をすると、日本人の多くの方は震え上がります。「リスク」という言葉にアレルギーがあるため、「リスクを取るしかない」と言われると、途端に思考停止してしまうのです。リスクについてはまた後述しますが、じつはみなさんがイメージされているような恐ろしいものではありません。たとえば、会社に出勤するにしても、ハイヤーでの送り迎えがあるエグゼクティブなら道を歩かずに済みますが、そうではないふつうの人は、駅までの道のりでクルマに轢かれるリスクがあります。自転車に乗れば転ぶリスク、人身事故のせいで電車が遅れるリスクなども取らねばなりません。ハイヤーがある人だって交通事故に遭うリスクはゼロではありませんし、家から一歩も出なくてもいい大富豪でも、大地震や強盗のリスクが完全に消えることはないでしょう。
要するに、私たちはみな、取らねばならないリスク、取るべきリスクはすでに取りながら生きているのです。
いかがでしたでしょうか? 預金だけでは“足りない”以上、一定のリスクを取った運用が必要になるということはおわかりいただけたと思います。なんだか損をしたような、がっかりした気持ちになった人もいるかもしれませんね。しかし、ファイナンシャル・プラニングの観点から冷静に考えれば、「預金だけ」のほうが間違いなく損であり、“もったいない”ということが見えてきます。これが預金にまつわる第2の事実です。次回はこれを詳しく見ていきましょう。
【執筆者紹介】岩崎淳子(いわさき・じゅんこ)ファイナンシャル・プランナー/米国公認会計士/パーソナル・ファイナンシャル・スペシャリスト(CPA/PFS)/Smart & Responsible代表。上智大学ドイツ語学科を卒業後、NTTに入社。米パデュー大学大学院 経営科学修士。ガートナーなど外資系IT企業にて、マーケティング戦略やアナリスト業務を経験したのち、2000年、夫の転職を機に米バージニア州に移住し、2歳児の子育てと家事を担当する専業主婦へと転身。大学で工学を教える夫が、家計に関わる余裕がなかったことから、自身の役割を「一家を支えるCFO」と再定義。仕事で培ったリサーチ・分析の能力を武器にしながら、独学でCPAとPFSの資格を取得。2011年、自身の苦労した体験に基づき、個人向けファイナンシャル・プラニングを行う「Smart & Responsible」を立ち上げ。主婦と専門家の2つの視点から、効率的な家計システム構築のヒントをアドバイスしている。現在、米カリフォルニア州在住。聖書をこよなく愛するクリスチャン。初の著書『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』を出版。