思い切り汗をかいて水風呂に入る爽快感。心も体もリフレッシュできるサウナがいまブームだ。中高年だけでなく若者や女性にもファンが広がり、「サウナー」と呼ばれる人たちが登場するほど。今回は専門家に“10倍楽しむ方法”を聞いた。高まるサウナ熱をあなたも実感しよう。
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「ここ数年はサウナブーム。昨年は日本初のサウナアイテム専門店がオープンするなど、人気は高まっています。『サウナ・スパ健康アドバイザー』の資格受講者は2500人を超えました」
こう話すのは日本サウナ・スパ協会理事で事務局長の若林幹夫さん。アドバイザーの資格は協会が2014年に新たにつくった。サウナやスパの正しい知識を身につけ、健康増進につなげるものだ。施設の従業員はもちろん、一般の施設利用者でも取ろうとする人がいる。若い女性の関心も高く、かつての「おじさんが行くところ」といったイメージは大きく変わった。
「最近では若い世代を中心にテントサウナもはやっています。機材を川辺などに運んで、野外でみんなで入る。温浴施設を利用するときも、おしゃれなサウナハットを持参する人もいます」(若林さん)
おじさんの、おじさんによる、おじさんのためのサウナではもはやないのだ。
施設もサービス向上に力を入れる。熱した石に水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」や、スタッフがタオルを振り回して熱風を広める「アウフグース」などが相次いで導入された。体にすり込むための塩を置いたり、蒸気で薬草の香りを充満させたりする施設もある。個人のこだわりに応じて楽しめるようになってきているのだ。
施設によっては24時間営業で、食事や仮眠をとることができる。漫画やネットを追加料金なしで利用でき、長時間過ごせるようになっている。男性専用店がまだ多いが、都市部では女性専用フロアを備えたところが増えてきた。アメニティーやリラクセーションに力を入れた女性専用店も登場している。あなたの街にも、「サウナー」たちが集う場所があるはずだ。
“達人”はどのように利用しているのか。日本サウナ・スパ協会から「サウナ大使」に任命された、“マンガ家”のタナカカツキさんに教えてもらった。サウナ中毒になってしまった体験を基に、『マンガ サ道 マンガで読むサウナ道』という作品も描いている。
取材場所はタナカさん行きつけの「スカイスパYOKOHAMA」(横浜市)。一日の大半はサウナ施設で過ごし、アイデアも考える。サウナにハマるまでは仕事場のパソコンの前に座りっぱなしで、「血行に悪い生活だった」。サウナで全身の血流が良くなり、水風呂に入ることですっきりするという。
「『サウナ→水風呂→休憩』を何回か繰り返します。水風呂を出てぬれた体を拭いているうちに、火照りが抑えられ気持ちよくなる。それから浴場内のいすにゆっくり座ったり、横たわったりするのです」
呼吸を整え、何もかも忘れて無になる。時間にしてわずか数分でも、心が整理整頓され「整った」感覚が味わえるという。
「私がサウナに行くのは、『冷えた水』を求めるからです。施設の水風呂は冷却装置があるので16~17度ぐらい。一般家庭でそんな低い温度の水風呂はできません」
サウナに入った後に、冷たい水でクールダウンするのは本場でも同じ。北欧のフィンランドは、人口約550万人に対し200万~300万ものサウナがあるという。神聖な場所として認識され、かつてはサウナ室で出産や死後の遺体を清めることが行われていた。
父親もサウナ室で生まれたというフィンランド大使館のマルクス・コッコ参事官はこう話す。
「われわれにとってサウナは生活の一部です。友人らを招き『サウナの夕べ』をやることもあります。室内ではみんな裸で社会的地位は関係ない。平等に話せる交流の場でもあるんです」
日本では一般的に室内が明るく温度も100度近いのに対し、フィンランドでは薄明かりで温度は88度ぐらい。じっくり入った後に水で冷やすが、そばに湖がある場合はそのまま飛び込む。雪の上で寝転んで冷やすこともあるという。
「熱いところから冷たいところに移るのは体に負担になりますが、フィンランドの人たちは入り方をちゃんと知っています。早歩きできる人なら、湖に飛び込んでも大丈夫だと考えられています」
今年は日本とフィンランドの外交関係樹立100周年。フィンランド政府観光局は昨秋から、日本人旅行者向けに「ビジット・フィンランド・サウナキャンペーン」を実施している。サウナを通してフィンランドの生活や文化への理解を深めるもので、日本のサウナブームを後押ししている。
そんなサウナの体への効果も考えてみよう。日本サウナ・スパ協会によると、
「高温のサウナに入ると、血流が増し脈が速くなる・血圧が上がるなど身体の各器官に機能亢進(こうしん)が起こり、その結果、新陳代謝が活発になり、乳酸などの疲労物質が汗と共に体外に排出されます。循環器系の働きが高まるにつれて、肝機能や自律神経系、副腎の働き、神経ホルモンなども関連し合い、熱気に対応する態勢をつくるのです」
デトックス効果については、汗の大半は水と塩分なので期待薄だ。サウナに入る前後で体重が減っていても、それは水分が出ただけ。爽快感はあっても、ダイエットに有効とは言えない。
とはいえ、サウナの効用は再評価されている。心臓病の治療に活用されるなど、改めて注目されているのだ。
元鹿児島大学教授で和温療法研究所(東京都千代田区)の鄭忠和所長は、サウナを用いた治療に長年取り組む。室内を均等の60度に設定した遠赤外線乾式サウナ治療室で全身を15分間温め、出浴後は30分間保温し、最後に発汗した水分を補給するものだ。60度で全身を温めることで交感神経をあまり緊張させずに副交感神経を亢進させる。
この和温療法は慢性心不全について有効だと、日本循環器学会のガイドラインでも認められた。12年には慢性心不全に対する「高度先進医療B」として承認された。
「和温療法を行うと、心拍出量が増加し、全身の血液循環が改善する。心不全や閉塞性動脈硬化症、慢性疲労症候群などの治療として行っていて、いい効果が出ています」(鄭さん)
サウナを10倍楽しむためには、健康上の注意点もある。熱くて耐えられないのに無理をしたり、風邪気味で体調が悪いのに入ったりしないことだ。
こうした誤った入り方は少なくないと指摘するのが、総合内科専門医で秋津医院(東京都品川区)の秋津壽男院長。
「サウナは自分より長く入っている人がいるからといって、我慢して入り続けるものではありません。長時間入れば、何キロも走るのと同じくらいの負担がかかります」
サウナの醍醐味(だいごみ)である水風呂も、体に負担がかかることを覚えておこう。いったん上昇した心拍数が急激に低下し、危険な状態に陥る恐れもあるという。
「どんな人でも、今日は体が変だなという日があると思います。そう気づいたときに、『勇気ある撤退』ができるかどうかが大切です。その判断ができる人は何をやっても大丈夫です」
前出の鄭さんも、温度と体調に注意が必要だと訴える。
「サウナは同じ室内でも、場所によって温度が大きく異なります。一般のサウナではベンチの下段は70度ぐらいですが、中段は80度、上段は90度以上になります。自分に合った温度のところに座りましょう。体調が優れないときは控えることが望ましい。出てからゆっくり休むことも大事です」
無理をし続けると、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞など重大な病気につながる恐れがある。昨年亡くなった歌手の西城秀樹さんが、03年にサウナ入浴後に脳梗塞を発症したケースもあった。高血圧などの持病がある人は、特に注意しよう。
ほかにも酒を飲んでから入るのは良くない。アルコールを分解するには水が必要なのに、利尿作用もあるため脱水症状になりやすい。そんな状態で汗を大量にかけば、脱水症状が進んで血液が濃くなり、血栓ができやすくなる。通常でも入る前と後は、十分に水分をとるようにしよう。
施設には体を休めるところや水を飲めるところが必ずある。休息や水分補給などのポイントを押さえつつ、自分流の楽しみ方を追求していけばいい。
ここまで説明してきた楽しみ方を「10カ条」として下記にまとめたので、参考にしてほしい。どれも基本的なことだが、こうしたことを守れば安全だ。
まだまだ寒い季節。身も心もいやしてくれる「熱き楽園」に、あなたも入りましょう。(本誌・大崎百紀)
■サウナを楽しむ10カ条
○食後すぐや、飲酒しての利用は避ける
○体調が優れないときは入らない
○入る前後はたっぷり水分補給
○時間は1回あたり8~12分程度
○水風呂と交互に3回ぐらい繰り返す
○サウナ室内では深い呼吸でリラックス
○「ロウリュ」や「アウフグース」も利用
○我慢比べはしない。高血圧の人は要注意
○終わりにシャワーか水風呂で熱を冷ます
○いすなどでゆっくり休む時間をとろう
(取材をもとに編集部作成)
※週刊朝日 2019年3月1日号