引き続き、吉村作治氏の「貴族の墓のミイラたち」のご紹介を続けます。
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(引用ここから)
一方、「アク」はこの世とは隔絶した存在で、死後の世界に住む霊の状態を表すものであった。
つまり死者の第二の生、永遠の命ともいえる。
古代エジプト人が冥界を「葦草の原(イアルの野)」と呼ばれる至福境に仕上げた時、「アク」はそこで飢えも悲しみもない、幸福な日々を過ごすとされた。
このようにミイラは「バー」や「カー」の帰る所として重要なものであり、古代エジプト人が信じていた死後の世界を支える基本的な要素であった。
しかしさまざまな思想を同時に自らのものとすることに長けていた古代エジプト人は、死後の世界を確実なものとするのも「カー」や「バー」や「アク」の存在だけでは満足しなかった。
彼らはオシリス神話の中にも復活思想をとりいれ、死後の世界と結びつけたのである。
オシリス神話は、古代エジプトの歴史を通じて常に宗教の主流をなすものであった。
物語の概略は「地上の良き王であったオシリス神は弟セトの策略にかかり、箱に詰められて海に流されてしまう。
それを知ったオシリスの妻イシスは、妹でありセトの妻でもあるネフティスとともに地中海を探し回り、ついにビブロスの浜辺に打ち上げられていたオシリスを発見した。
オシリスは既に死んでいたが、イシスは遺体をエジプトに持ち帰り、神々の力を借りてオシリスの復活に成功する。
そして息子ホルスを身ごもった。
しかしそのことを知ったセトは、またもやオシリスを探し出すと今度は身体を14に切り刻んでナイル川に投げ込んでしまった。
悲しんだイシスは再び夫の体を探して、ナイルをさまよい、身体の一部を見つけるごとにそこに墓を建てて行った。
こうしてイシスはオシリスの体を拾い集め、元の形に縫い合わせた。そして再び復活させたのである。
しかしオシリスもはや以前のような活力はなかった。
心配した神々は、オシリスを冥界の王として地下の世界に君臨させることにした」
というものである。
ここに描かれた「オシリスの復活」は、古代エジプト人の、“死した後も再び生きたい”という願いの表れであり、冥界で永遠に生き続けるオシリスは、彼ら自身であった。
ちなみに古代エジプトの壁画の中でオシリス神の顔が緑色をしているのは、すでに死んだ神であることを意味している。
(引用ここまで)
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写真はオシリス(大英博物館 古代エジプト展 カタログより)です。
古代エジプトの人々は、オシリスの復活神話にあやかって、自分たちも、ミイラになることで、オシリス神のように再生・復活を果たそうと願ったのでしょう。
そして来世は不思議なほど、現世にそっくりで、いつまでも、いつまでも、死ぬことなく、この世の生活を続けたいという思いが伝わってきます。
同カタログにある「未来の楽園」という章には、来世の情景が次のように書かれていました。
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(引用ここから)
古代エジプト人が憧れた「イアルの野」は、審判をくぐり抜けた者だけが入ることを許された来世の楽園である。
そこには豊かな収穫があり、神々と祝福された死者が平和と幸福の中で永遠の生を享受した。
「イアルの野」の具体的なイメージは、緑が茂り、実り豊かで、満々と水をたたえるナイル渓谷やデルタ地帯の風景を背景に育まれた。
「イアルの野」での生活は、畑を耕す、牛を追うといった生前と変わらぬ生活であり、現実世界と同様に労働が必要とされたが、「シャプティ」と呼ばれる身代わりの小像を副葬することで、それをのがれる手段を講じた。
(引用ここまで)
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