「温室ガス減 先住民の知恵・・豪アボリジニ「火つけ」応用」
朝日新聞2015・12・11
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大規模な山火事に悩むオーストラリアで、先住民アボリジニーの伝統を温室効果ガスの排出削減に生かす試みが進んでいる。
数万年前から受け継いできた延焼を防ぐ知恵で、排出をどれだけ減らせるのか。
科学的に計算して「排出権」として売ることも可能になった。
南十字星の下で
北部準州の州都ダーウィンから車で3時間余り、1800平方キロのほとんどを森林が占めるフィッシュリバー地区。気温45度、ワニが泳ぐ川を渡り、熱風が吹く大地を進むと、水牛やカンガルーの群れが、土ぼこりをたてて通り過ぎる。
しばらく行くと、黒こげの木々が並ぶ森が現れた。
「ここは外部からの人間の失火で燃えてしまった。
木が枯れたままでは動物も来ない。一度死んだ森は生き返るのに何年もかかる」。
同地区で自然保護活動をする先住民レンジャー、ジョン・デイリーさんが表情を曇らせた。
乾期のうちでも最も乾燥する8月に、山火事が起きたのだ。
だが、離れた場所にある別の森に入ると、風景が一変した。
同じユーカリの木でも、焦げているのは幹の下部分だけ。
上部は緑色に芽吹いた枝が伸びる。
「4月に『火付け』しておいた。森を生かし続けるアボリジニーの知恵だよ」。
デイリーさんは誇らしげだ。
「火付け」とは、火のついた木片を手に、サバンナの下草に火を付けて回ること。
豪州大陸に5万年以上暮らすアボリジニーに代々伝わる。
カンガルーなどを追い立てる狩猟のほか、大火事を防ぐ効果がある。
燃えやすい下草を焼いておけば、木々に燃え広がる原因をあらかじめ取り除くことになるからだ。
山火事の原因は、落雷から旅行者の失火まで様々だ。
だが、燃えた分だけ温室効果ガスの二酸化炭素などが発生してしまう。
そこで、先住民土地公社が政府から補助金を得て2010年に、白人の牧場主らから同地区の土地を計約1300万豪ドル(約11億円)で購入。
2011年から、公有地になった土地で、約20人の先住民レンジャーが「火付け」を始めた。
弱い火をおこす「火の種」と呼ぶ薬品をヘリコプターから落とす方法も使うと、焼失面積は以前の30分の1近くに減った。
北部準州のアボリジニーらを代表する公的機関「北部土地評議会」のジョー・モリソン代表は、
「乾燥大陸を植民地化した白人にとって、火は恐ろしい悪の存在。
だが、火と共存してきた我々は、幼いころから火の管理法をたたき込まれている」と話した。
排出権取引で収入も
火付けの知恵を山火事の管理に生かそうと働きかけたのは、連邦科学産業研究機構(CSIRO)のガリー・クック博士だ。
北部準州のサバンナで土地や植生を調べ、「山火事による温室効果ガスの排出は深刻だ」と考えていた1990年代、「木の棒でちょこちょこと火を付けて歩く人々」に気づき、「これを排出を減らす仕組みに応用できないか」と考えた。
乾期に燃える草木などの重さや、排出される煙の成分を分析。
毎年、国土の約25%を占めるサバンナの山火事が、豪州全体で出る温室効果ガスの2~4%を占めるとはじき出した。
さらに、植生の種類や衛星画像などのデータも加え、火付けを始める前の温室ガス排出量を算出。
火付けで排出を減らした分を豪州が独自に認証する「炭素クレジット」(温室ガス1トン削減分が1単位)として、排出権取引で国内で売れるようにした。
買う側の企業が、自社の温室ガス排出と埋め合わせて、排出削減に貢献する仕組みだ。
フィッシュリバー地区で11~14年に企業へ売られたクレジットは50万豪ドル(約4200万円)分以上で先住民社会の貴重な収入源となった。
取り組みは、北部準州の14万平方キロのサバンナに広がっている。
先住民土地公社のネリッサ・ワルトンさんは「先住民の伝統文化と科学が融合した画期的なモデル」と評価する。
ただ、2年前に労働党から保守連合に政権交代したことに伴い、クレジットの単価自体は下がっている。
労働党政権は企業に排出削減義務を課しており、企業がクレジットを買う仕組みだったが、保守連合政権は「排出量を減らす取り組みを直接、政府が支援する」という方針に転換。
今年から様々な排出削減のクレジットについて、政府が主に費用対効果の高い順に買う制度に変えると価格が急落した。
11月5日の最新の競売では、クレジット1単位の平均価格は12・25豪ドル(約1100円)と労働党時代の約半額になった。
COP21でアピール
国内ではクレジット売買にブレーキがかかる状況となっているものの、国連大学高等研究所のサム・ジョンストン上級研究員は、アボリジニーの知恵は世界中で活用できるという。
「南米やアフリカ、アジアには、「火付け」に似た方法が先住民に存在した国が多い。
すでに約20カ国が豪州の制度に興味を示している」
こうした国々では近年、温暖化対策として先住民の伝統的なエコシステムが見直されており、豪州で確立された算出法などが役立つ。
パリで開かれている国連気候変動会議(COP21)でも、アボリジニーの代表者が「国際先住民フォーラム」で火付けによる火災管理を発表し、「先住民は温室ガスから地球を守る最高の保護者」とアピールした。
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この記事を読んで、アボリジニの集落から、ミステリアスな方法で招待を受け、約3か月をすごした海美央さんの本「アボリジニの教え・・大地と宇宙をつなぐ精霊の教え」という本を思い出しました。
アボリジニの女性が彼女に語った言葉です。
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(引用ここから)
現在、都会となった場所は、かつては森だったのよ。
その森には、様々な動植物たちが存在していたのよ。
それが人間によって、破壊されていった。
人間によって崩されてしまった自然の中に今、人々は置かれている。
その中で、これからも人々は、辛く悲しい思いをしながその風景を見るでしょう。
でもね、たとえばブッシュ・ファイアーを考えてほしいの。
乾季になると自然発火してしまい、何日間も草木が燃え続けるのよ。
動物たちは焼かれ、それは悲しい風景ではあるのよ。
でも、それで大地のバランスをとっていく仕組みになっているの。
その後は「時」の恵みによって、再び新しく新鮮に、自然はうまれ変わっていく。
また素晴らしい世界がやってくるのよ。
これはなんてありがたいことなんでしょう。
(引用ここまで)
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