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2010年9月24日読売新聞
「人類の繁栄、危機生む 6度目の大絶滅」
この半世紀たらずで世界のエネルギー消費量は3倍近くに増え、穀物需要も2倍になった。
地表の1割が農地になり、森林の減少は歯止めがかからない。
世界の人口は坂本竜馬が生きた150年前の約5倍に膨れ上がった。
≪ 6度目の大絶滅 ≫
地球はいま、6度目の大絶滅時代に入っている。
未知のものも含めると3000万種もの生き物がいると推定されるが、絶滅種は1年間に4万種にも及ぶとの説もある。
国際支援保護連合によると、世界の野生動植物約4800種のうち、17000種が危絶滅の危機にさらされている。
レッドリストは、哺乳類490種で全体の21パーセント、両生類9998種で全体の30%、爬虫類1677種で全体の28パーセントが絶滅危惧種に指定されている。
この生態系の危機は、人類の繁栄が引き起こしたようだ。
国連によると、2010年の世界の全人口は69億人、1970年の約2倍になった。
増加のスピードは衰えず、2050年には91億人に達するという。
人口増に伴い、食糧の需要も急増。
2010年の米、トウモロコシ、小麦などの穀物需要量は22億トンで、1970年の2倍の水準だ。
食糧増産のため灌漑が進んだ。
世界の灌漑耕地面積は1970年の約1億7000万ヘクタールから、2008年には約3億ヘクタールに増えた。
耕地面積全体で見ると、地表の12パーセントに及ぶ。
農業には大量の水が必要だ。
河川や湖沼などからの取水量は約4400立方キロリットルで、20世紀初頭の約8倍にまで増大している。
国連事務総長が「最悪の環境破壊」と呼んだ中央アジアのアラル海は、灌漑がひきがねとなり、干上がっている。
中国黄河では水を取りすぎ、河川の水が河口まで達しない断流も起きた。
食糧問題は海にも及ぶ。
蛋白質源として魚の需要が増大している。
タラやスズキなどの大型魚の漁獲量は、北太平洋だけでは半世紀で3分の1になったという。
世界の食用の漁獲量は、年間約6000万トン。
1980年代までは増え続けていたが、漁業資源の枯渇から現在は養殖が増えている。
東南アジアでは、エビの養殖場を作るためにサンゴ礁やマングローブが壊された。
それが津波被害を拡大する原因にもなっている、と指摘されている。
FAOによると2000年からの10年間に毎年520万平方メートルの森林が失われている。
農地への転用などで消失した森林は、年間1300万ヘクタール。
世界一の熱帯雨林アマゾンをっ帰る南米では年間400万ヘクタール、アフリカでは年間340万ヘクタールの森林が失われている。
いずれも生物種が豊かな地域、ホットスポットだ。
人口は都市部に集中していく。
国連によると2009年に初めて都市人口が農村人口を上回った。
2050年には、世界人口の3分の2が都市で暮らすと予想される。
エネルギーの消費の増大も目立つ。
BPの統計では1965年の世界のエネルギー消費は原油換算で約40億トンだったが、2008年には110億トンを超えた。
こうした化石燃料の大量消費により、大気中の二酸化炭素の濃度は上昇を続ける。
平均気温は上昇カーブを描き、高地や極地の氷河は年々減っている。
「気候変動に関する政府間パネル」の報告書によると、CO2の排出がこのまま増えれば、今世紀末までに地球の平均気温は最大6・4度上昇する可能性がある。
平均気温の上昇が1,5~2,5度を超えると動植物の2~3割で絶滅リスクが高まるとも予測されている。
動物や植物は地球の表面だけで生きている。
海の深さは最大で10キロほど。
地球を直系1メートルの球とすれば、1ミリ弱でしかない。
人類もその薄皮のような生物圏で生まれた。
長い間動物の一種として控えめに生きてきたが、最近になって大きな力を手に入れ、地球の表面を荒し始めた。
その結果として起きているのが温暖化、生態系の破壊、砂漠化、海の汚染。
今私たちの目の苗にある地球環境問題である。
人間の破壊パワーが一気に大きくなった時期は3回ある。
1回目は約1万年前に農耕牧畜生活に入った時だ。
生産力が上がり、古代文明が誕生した。
人口も増え森が農地に代わった。
2回目は18世紀後半からの産業革命。
化石燃料を手にして、産業活動が一気に拡大した。
3回目は20世紀だ。
産業革命の続きだが、特別な100年間と考えざるを得ない。
人間活動の規模が爆発的に膨張し、地球の浄化能力を超えて汚染が広がった。
人口は16億人から61億人に、穀物生産は約7倍、鉄の生産は約30倍になった。
海が埋められ、道路や巨大都市が建設される。
地球の表面は私たちの人生でも実感できる速さで変貌している。
それを支えるエネルギー消費がいかに激しいか。
石油は主にジュラ紀など恐竜時代にできた。
1億年もの間、地下に眠っていた資源を人類は2~300年という「一瞬」で使い切ろうとしている。
誰もがこんな時代が続くはずがないと思っていたが、問題への本格的な取り組みは1990年頃の冷戦の終焉を待たなければならなかった。
核戦争の恐怖が消えたことで、地球環境問題が世界共通の脅威として認識されるようになった。
1988年の秋の国連総会で、当時のソ連外相が、転換期を象徴する歴史的な演説をしている。
「我々は開発活動によって、ソビエトの生命の基盤である環境が破壊される現実に直面している。
この脅威の前では、軍事に基づく国家の安全保障は時代遅れだ。
生物圏として見れば、国境に意味はない。
すべての人たちは同一の気候システムを共有している。
軍事力に基づいた東西対立の安全保障観から、生態系に基づく地球規模での安全保障観への転換が必要だ」。
世界の動きは早かった。
1992年には「生物多様性条約」と「気候変動枠部位条約」ができた。
地球環境保護の、双子の条約である。
「持続可能な開発」を問う新しい環境哲学も産み出された。
乱開発を止めて生態系のバランスを守る。
化石燃料の使用を減らして温暖化を止める。
突き詰めれば、二つの条約には、住みよい地球を取り戻すためにしなければならないことが集約されている。
ただすでに、地上面積の1割が耕地になった。
灌漑に水を取られて川は細り、乱獲で漁獲量は減っている。
こうした人間活動を一気に止めて、遠い昔の地球に戻すことはできない。
まずは悪化にブレーキをかけ、回復が不可能になるぎりぎりの転換点を回避することを目指す。
二つの条約は人類の反省と知恵から出来た。
21世紀は条約に基づいた行動を強める時期だ。
地球を荒らすのも人間だが、直すのも人間だ。
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