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スケートアメリカ2008女子フリー感想

2008年10月28日 01時28分22秒 | スポーツ
米NBCのサイトなどを見てすでに結果を知った上でのテレビ観戦。ラスト6人の演技をざっと見た程度だけれど、数名の感想を。

☆長洲未来

両親は日本人ということだが、日本人離れした手足の長さに目を見張る。もちろんそう見せる演技構成が素晴らしいわけだが。
スピード感があるのは何よりも評価できる点だ。キムのSPもスピードを感じたが、彼女もその点が印象深かった。また、最初のスピンは先にも述べた手足の長さを巧みに表現していてインパクトが強かった。このスピンだけなら既にトップクラスの演技だろう。
後半ミスも目立ち若さを露呈したが伸びしろはかなりあると感じられた。まだまだ若いが、バンクーバーは十分射程内にある。最近の女子フィギュアではピークの一つは15、6歳あたりにある。長洲は2010年の冬季五輪を16歳で迎えることになる。

☆安藤美姫

彼女に対してはいつも厳しいコメントを書いている気がする。マスコミが騒ぎすぎることが原因で、常にオーバーレイテッド(過大評価)されている印象があるからだ。もちろん世界選手権を勝った選手であり、世界のトップクラスの選手であることに全く異論は無い。ただ現段階で浅田・キムの二人に勝つには相当の幸運が必要であることも間違いないだろう。
フリーの安藤は精彩を欠いた。ジャンプに大きなミスも無く(トリプルトリプルが回転不足に判断されたが)、それでいて得点は伸びなかった。おそらく四回転を成功させたとしてもキムには届かなかっただろう。もともと安藤はジャンプの印象が強いが、それ以外の面も力を付けて世界選手権を取った。それなのにこの日の演技はジャンプしか記憶に残らないものとなった。
ひとつにはスピード感のなさが挙げられる。ジャンプ以外は全体に緩慢で演技のキレが感じられなかった。SPのステップで転倒したせいか力を入れていたステップも印象に乏しいものとなった。ジャンプとジャンプの繋ぎでも目を惹くようなものがなく、ひたすらジャンプを飛んでいたという記憶しか残らない。
四回転に賭ける意気込みは分かるが、四回転が安藤を縛っているという思いはトリノの頃から感じ続けている。もちろん四回転を綺麗に跳べたなら高い評価に繋がるのは間違いない。だが、本番で試せないレベルの技に頼るのはどうかと思う。四回転を跳べなくとも世界選手権で勝てるほどの力を持っているのだから。四回転に挑戦する姿勢は素晴らしい。ただマスコミなどによって呪縛されているように見えてしまう。
ジャンプはともかく、それ以外の要素を次の中国での大会までにどこまで修正できるのか。今シーズンをどう過ごすかがオリンピックへの重要な布石となるだけに注目したい。

☆中野友加里

安藤ばかり注目されるが、中野の成長はかなり充実しているように見えた。演技の深みという点ではキムには劣るが、それでも高い表現力は見事だ。中野らしさというものが表情だけでなく演技として出せるようになってきた。
課題ははっきりしている。トリプルアクセルとトリプルトリプルのコンビネーションジャンプだ。日本のトップスリーで甘んじるならばこれらは必要ない。しかし、世界のトップスリーの座を狙うには絶対に必要となる。試合後のインタビューで自ら真っ先にこの課題を挙げていた。しっかりと自覚している点で伸びる余地は十分にあると思った。
フリーの演技だけ見れば、安藤よりもいい内容だった。それでもキムとの差は大きい。先に挙げたジャンプを安定して跳べるようになった上で初めてキムとの勝負の舞台に立ったと言える。バンクーバーまでの時間を考えると、今シーズン中に一度はこれらのジャンプを本番で見てみたいところだ。この日の調子は万全ではなかったが、それでも安定した演技を見せた。次はしっかり調子を整えて、チャレンジして欲しい。

☆キム・ヨナ

ミスがなかったわけではない。それでも圧倒的な勝利だった。スピード、表現力、ジャンプの安定感、そして自信。着実に成長している様子が窺えた。
浅田真央もそうだが、たとえ失敗してもそれを乗り越える精神的な強さが伝わってくる。それが演技の細部にまで宿り、見る者を惹きつける。高いスケート技術が表現力の礎になっている。
もちろんまだまだ現状に満足していないだろう。何と言っても高いレベルで競い合うライバルの存在が互いを高めているのは間違いない。自国開催のグランプリファイナルで3連覇も掛かっている。また女子では未だに達成していない200点越えも視野に入っているだろう。こうした高い目標の先にはもちろんバンクーバーがある。
現状世界で彼女を脅かすのは一人だけだ。恐らくキムは現在のレベルの維持と精度の向上に力を注ぐだろう。技術的なレベルでの新たな冒険は必要ない。完璧なキム・ヨナの演技を見てみたいと思う一方、それを上回る浅田の演技も見てみたい。バンクーバーに向けた二人の戦いに世界中がワクワクしているのではないか。