先日のスーパーボウルで、Philadelphiaが選択したオンサイドキックについて考えたことを書いてみたい。批判というより、こういったことを考えることもフットボールの楽しみなんだって視点で読んでもらいたい。
フットボールは合理性を重視したスポーツだ。例えば敵陣ゴール前1ヤードに攻め込んでいても、必要であればニーダウンで時計を進めることを選択する。日本の試合では少ないが、リードしているチームが残り時間を消費できるのであれば、イートザボールをしてそれ以上プレイせずに試合を終了させる。勝つために戦っているのであって、無駄に点を取ることは美徳とされないスポーツだ。合理性に従ってセオリーが生まれ、セオリーを大切にするスポーツでもある。
改めてPhiladelphiaがオンサイドキックを蹴った場面を振り返ってみよう。
PhiladelphiaがTDを奪って、24-21に詰め寄った。残り時間は1分48秒。残りタイムアウトは、Philadelphiaが二つ(New Englandは三つ)。
NFLでは前のプレイ終了から40秒以内にプレイしなければならないので、タイムアウトがなければ、ランプレイ3回で120秒つまり2分消化できる。従って、Philadelphiaが残りタイムアウトがなければオンサイドキックを蹴る以外に選択肢がない。残りタイムアウトが1つの場合80秒消費されることが確実で、その他の部分での消費と合わせると、再び攻撃権を得たときの残り時間は20秒を切っている可能性が高い。よって、この場合もオンサイドキックを選択した方が合理的であると考えられる。
しかし、今回は2つのタイムアウトを残していた。通常NFLでは、特に後半は、タイムアウトはディフェンスで使うことがセオリーだ。オフェンスではタイムアウトがなくてもある程度時間を止められるのに対し、ディフェンスではそれが困難だからだ。
まずここで、オンサイドキックを選択し失敗した場合と、オンサイドキックを選択せず深く蹴り込んだ場合を比較してみよう。前者の場合、New Englandは敵陣45ヤード前後で攻撃開始。後者の場合、おそらくタッチバックを狙って蹴るので自陣20ヤード付近からの攻撃開始が予想される。
New Englandがこのシチュエーションでランプレイ以外の選択肢を取る可能性は皆無と言っていい。ショートパスに定評があるといっても、成功率は100%ではないし、インターセプトのリスクを考えると、パスを投げることはセオリーに反する。New Englandにとって、この場面ではファーストダウンを取ることも重要だが、それ以上に時間を消費することが重要だ。
Philadelphiaのディフェンスは24点の失点はしたものの、決して弱いわけではなく、ランプレイも出された場面もあったが、この状況ではスリーアンドアウトにできる確率は高い。私の判断では、Philadelphia陣45ヤードであれば65%、New England陣20ヤードであれば70%の確率でスリーアンドアウトできる。自陣に近ければファンブルへの警戒も強くなり、敵陣であればわずかではあるがパスの可能性があるため5%の差をつけた。
続いて、Philadelphiaディフェンスが攻撃をうまく止めた後のことを考えてみよう。スリーアンドアウトになれば当然New Englandはパントを蹴る。ランで5ヤード前進してパントを蹴った状況を分析してみよう。敵陣40ヤードからパントを蹴る場合、普通に蹴ればタッチバックとなる可能性が高い。ただそれだと時間の消費も乏しい。パントブロックやビッグリターンをされないように気をつける必要はあるが、高く、浅めに蹴って、インサイド20を狙うのが基本だろう。この場合のPhiladelphiaの攻撃開始地点を自陣15ヤードと設定してみる。対して、自陣25ヤードからのパントの場合を考える。単純に考えると、40ヤードのパントを蹴って5ヤード程度リターンされて、Philadelphia陣40ヤード。実際にはリターンのリスクを恐れてサイドラインに蹴り出したり、高く蹴ってカバーを優先すると思われるので、30~35ヤードのパントでリターンなしの可能性が高い。この場合の攻撃開始地点は自陣40ヤードと設定する。
共にタイムアウトは消費済みで、残り時間は50秒前後となる。FGレンジをNew England陣30ヤードとすると、前者は55ヤード、後者は30ヤード進む必要がある。キッカーの能力の高さを考えてFGレンジを35ヤードと見なせば、50ヤードと25ヤードで丁度半分となる。タイムアウトがないので、サイドラインに出るか、パス失敗、ボールをスパイクして時計を止めることが必要となる。私の想定では、50~55ヤード前進してFGを蹴れる確率を15%、25~30ヤードの場合を45%とする。サイドラインは守備に警戒されパスを決めるのは困難だ。中であればある程度パスを通せるだろうが時間が消費する。50秒前後では、中へのパスは3、4回決めると急いでも時間がなくなるだろう。ただし、Philadelphiaが敵陣まで進めば、New Englandは今度はTDのリスクに対応する必要が出てくる。New EnglandはFGを決められても同点。TDを許せば残り時間から考えて敗戦確実だ。Philadelphiaが自陣にいる間はそのリスクは非常に低いが、New England陣に入れば可能性が徐々に高まる。
では、スリーアンドアウトに成功し、FGを決める確率を計算してみよう。オンサイドキックを蹴った場合は、0.65×0.15=0.0845。蹴らなかった場合は0.7×0.45=0.315。オンサイドキックを蹴って成功した場合、FGを蹴れる確率はモメンタムの獲得も考慮して90%とすると、x×0.9+(1-x)×0.0845≧0.315。x=0.2826・・・。オンサイドキックの成功率が28%以上ならこの判断は正しかったわけだが、現実の成功率は約20%(ネット上で調べた限りではデータが見つからなかった。ただこの程度と言われているようだ)。この差をどう捉えるかは人それぞれだと思う。
今回の計算では、スリーアンドアウトの確率は比較的自信があるが、ドライブしてFGを蹴れる確率については非常に悩んだ。最初は30%と70%としたが、徐々に確率を下げていった。もちろんこの数字をどうするかで計算全てが変わってくるのだが。
オンサイドキック選択の背景には、HCアンディ・リードがオフェンスマインドのコーチであることが挙げられるだろう。私自身はあの場面で深く蹴るだろうと予想していたし、ベリチックなら深く蹴ったのではないかと想像する。もちろん結果がどうなったかは分からない。ただこういうチョイスを色々と考えたりできることが、フットボールの面白さじゃないかと今回改めて思った。というわけで、来シーズンの開幕を今から首を長くして待つことにしよう(笑)。
フットボールは合理性を重視したスポーツだ。例えば敵陣ゴール前1ヤードに攻め込んでいても、必要であればニーダウンで時計を進めることを選択する。日本の試合では少ないが、リードしているチームが残り時間を消費できるのであれば、イートザボールをしてそれ以上プレイせずに試合を終了させる。勝つために戦っているのであって、無駄に点を取ることは美徳とされないスポーツだ。合理性に従ってセオリーが生まれ、セオリーを大切にするスポーツでもある。
改めてPhiladelphiaがオンサイドキックを蹴った場面を振り返ってみよう。
PhiladelphiaがTDを奪って、24-21に詰め寄った。残り時間は1分48秒。残りタイムアウトは、Philadelphiaが二つ(New Englandは三つ)。
NFLでは前のプレイ終了から40秒以内にプレイしなければならないので、タイムアウトがなければ、ランプレイ3回で120秒つまり2分消化できる。従って、Philadelphiaが残りタイムアウトがなければオンサイドキックを蹴る以外に選択肢がない。残りタイムアウトが1つの場合80秒消費されることが確実で、その他の部分での消費と合わせると、再び攻撃権を得たときの残り時間は20秒を切っている可能性が高い。よって、この場合もオンサイドキックを選択した方が合理的であると考えられる。
しかし、今回は2つのタイムアウトを残していた。通常NFLでは、特に後半は、タイムアウトはディフェンスで使うことがセオリーだ。オフェンスではタイムアウトがなくてもある程度時間を止められるのに対し、ディフェンスではそれが困難だからだ。
まずここで、オンサイドキックを選択し失敗した場合と、オンサイドキックを選択せず深く蹴り込んだ場合を比較してみよう。前者の場合、New Englandは敵陣45ヤード前後で攻撃開始。後者の場合、おそらくタッチバックを狙って蹴るので自陣20ヤード付近からの攻撃開始が予想される。
New Englandがこのシチュエーションでランプレイ以外の選択肢を取る可能性は皆無と言っていい。ショートパスに定評があるといっても、成功率は100%ではないし、インターセプトのリスクを考えると、パスを投げることはセオリーに反する。New Englandにとって、この場面ではファーストダウンを取ることも重要だが、それ以上に時間を消費することが重要だ。
Philadelphiaのディフェンスは24点の失点はしたものの、決して弱いわけではなく、ランプレイも出された場面もあったが、この状況ではスリーアンドアウトにできる確率は高い。私の判断では、Philadelphia陣45ヤードであれば65%、New England陣20ヤードであれば70%の確率でスリーアンドアウトできる。自陣に近ければファンブルへの警戒も強くなり、敵陣であればわずかではあるがパスの可能性があるため5%の差をつけた。
続いて、Philadelphiaディフェンスが攻撃をうまく止めた後のことを考えてみよう。スリーアンドアウトになれば当然New Englandはパントを蹴る。ランで5ヤード前進してパントを蹴った状況を分析してみよう。敵陣40ヤードからパントを蹴る場合、普通に蹴ればタッチバックとなる可能性が高い。ただそれだと時間の消費も乏しい。パントブロックやビッグリターンをされないように気をつける必要はあるが、高く、浅めに蹴って、インサイド20を狙うのが基本だろう。この場合のPhiladelphiaの攻撃開始地点を自陣15ヤードと設定してみる。対して、自陣25ヤードからのパントの場合を考える。単純に考えると、40ヤードのパントを蹴って5ヤード程度リターンされて、Philadelphia陣40ヤード。実際にはリターンのリスクを恐れてサイドラインに蹴り出したり、高く蹴ってカバーを優先すると思われるので、30~35ヤードのパントでリターンなしの可能性が高い。この場合の攻撃開始地点は自陣40ヤードと設定する。
共にタイムアウトは消費済みで、残り時間は50秒前後となる。FGレンジをNew England陣30ヤードとすると、前者は55ヤード、後者は30ヤード進む必要がある。キッカーの能力の高さを考えてFGレンジを35ヤードと見なせば、50ヤードと25ヤードで丁度半分となる。タイムアウトがないので、サイドラインに出るか、パス失敗、ボールをスパイクして時計を止めることが必要となる。私の想定では、50~55ヤード前進してFGを蹴れる確率を15%、25~30ヤードの場合を45%とする。サイドラインは守備に警戒されパスを決めるのは困難だ。中であればある程度パスを通せるだろうが時間が消費する。50秒前後では、中へのパスは3、4回決めると急いでも時間がなくなるだろう。ただし、Philadelphiaが敵陣まで進めば、New Englandは今度はTDのリスクに対応する必要が出てくる。New EnglandはFGを決められても同点。TDを許せば残り時間から考えて敗戦確実だ。Philadelphiaが自陣にいる間はそのリスクは非常に低いが、New England陣に入れば可能性が徐々に高まる。
では、スリーアンドアウトに成功し、FGを決める確率を計算してみよう。オンサイドキックを蹴った場合は、0.65×0.15=0.0845。蹴らなかった場合は0.7×0.45=0.315。オンサイドキックを蹴って成功した場合、FGを蹴れる確率はモメンタムの獲得も考慮して90%とすると、x×0.9+(1-x)×0.0845≧0.315。x=0.2826・・・。オンサイドキックの成功率が28%以上ならこの判断は正しかったわけだが、現実の成功率は約20%(ネット上で調べた限りではデータが見つからなかった。ただこの程度と言われているようだ)。この差をどう捉えるかは人それぞれだと思う。
今回の計算では、スリーアンドアウトの確率は比較的自信があるが、ドライブしてFGを蹴れる確率については非常に悩んだ。最初は30%と70%としたが、徐々に確率を下げていった。もちろんこの数字をどうするかで計算全てが変わってくるのだが。
オンサイドキック選択の背景には、HCアンディ・リードがオフェンスマインドのコーチであることが挙げられるだろう。私自身はあの場面で深く蹴るだろうと予想していたし、ベリチックなら深く蹴ったのではないかと想像する。もちろん結果がどうなったかは分からない。ただこういうチョイスを色々と考えたりできることが、フットボールの面白さじゃないかと今回改めて思った。というわけで、来シーズンの開幕を今から首を長くして待つことにしよう(笑)。