161108 遺産相続について 農地相続と相続分の譲渡
人は生まれ、そして死ぬ、それは必然ですね。空海は「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」と言っています。なにか深い意味がありそうですが、死ぬまでに理解できるか怪しいところです。
ところで、人が死ぬと、とりあえずその遺産相続が、さまざまな感情とは別に発生します。現行民法により共同相続制となった結果、家制度の中核を担った家督相続制を廃したわけですが、それに対応する意識が容易に育つわけでもなく、さまざまな紛争が起こり、また今後も起こってくるでしょう。
戦前戦後には多産が当たり前のようなとき、子だくさんの家族が多かったと思います(国の政策もありましたね)。ところが、いろいろな事情で生涯一人で人生の最後を迎えた人も少なくないように思います。そういう人、兄弟姉妹も亡くなり、甥姪、あるいはその子しかいないといった人の相続に関わる仕事をしたことがあります。将来を意識した人からは遺言書案の作成を頼まれます。それである程度解決する場合は多いと思います。中には病院で息を引き取る直前に公証人に来てもらって作成したものも何度かあります。
ところが、遺言書というのは、日本人の意識の中では縁遠い存在になっているように思います。死を意識することを忌避するのかもしれません。いや、家族は争わないものと思っているのかもしれません。ともかく遺言がない相続が一般ではないかと思います。
それで問題が生じなければいいのですが、いろいろ紛糾することも間々あります。当事者間で話がつかないと、家裁で遺産分割調停、そして審判といった長い手続きになります。
とはいえ、私は遺産がいらないとか、紛争につきあいたくないとか、といった人も、やはりいらっしゃるのです。そういう人のために、相続放棄手続きがあることはよく知られています。ただ、知ってから3ヶ月以内に家裁で手続きしないといけないので、油断すると期間経過することもあります。そしてこの方法は、放棄した自分の相続分が残った人に等分に貴族することになります。それは場合によっては不本意なことになります。
夫が亡くなった後、家業を長男に継がしたいが、他の姉妹などともめていて、うまくいかない、そういうとき自分の相続分を長男に譲渡することにより、目的を達成させることができます。バブルの時代に受けた都内で起こった事件で、当時は不動産は何億円を超えるというのが普通の家庭でもあったのではないかと思います。そこで問題は相続分の譲渡が贈与税の対象となるかということで、そうなると大変です。
まだ相続分の譲渡がそれほど一般的でなかったこともあり、税務処理がはっきりしないときでしたが(むろんウェブ情報といった便利なものもありません、論文もわずかでした)、税務問題の仲間と議論して贈与税の対象にはならないとの解釈が支持されたことを踏まえて、あえて実践したことがあります。おそらく今では当たり前の税務処理だと思います。
相続分の譲渡は、遺産分割の紛争から逃れることができるだけでなく、遺産を少しでも多く継承してもらいたい人に、自分の相続分をあげることができるので、極めて有効な手法だと思います(むろん有償もありその場合は代償分割となります)。
前段が長くなりましたが、農地や林地の場合、このような相続分の譲渡という手法を利用することは、有効な土地利用のあり方として、もっと利用されてよいと考えます。農地や林地で、共同相続したのはいいが、どこにあるのか分からない、放置されたまま、他方で農業委員会や森林組合など管理を担うところでは、所有者が不明で対処できないといったことが日本中で起こっています。農地法は改正して相続届けを義務づけていますが、有効に働くか疑問です。
ところで、少し前の事件ですが、農地の相続登記後に、相続分を譲渡し、その移転登記をしようとしたら、農地法の許可書が添付されていないという理由で却下され、訴訟になったケースです。一審が許可不要、二審が許可必要と判断が分かれた後、平成13年7月10日最高裁は、農地法は農地相続が許可対象から除外していること、同施行規則も遺産分割などを対象外としていることを踏まえて、相続分の譲渡も対象外であり、農地法の許可は必要ないと判示しました(判例時報1762号110頁など多数、判決文は書きURL)。これは当然の結論ではないかと思うのです。二審の解釈があまりに条文の文言にこだわり、また相続登記を硬直に解釈し農地法の許可制の趣旨を理解していなかったと考えます。相続分の譲渡は、今後とも法的な手法の一つとして、農地や林地の相続で活用してもらいたいと思う次第です。
URL: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/276/052276_hanrei.pdf