環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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混迷する日本⑱ 消費者の視点に立つ食品政策の必要性

2008-02-03 18:16:22 | 農業/林業/漁業/食品
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1月31日の各紙が「日本たばこ産業(JT)子会社のジェイティフーズが中国の食品会社が製造した冷凍ギョーザを食べた千葉県と兵庫県の3家族計10人が下痢やおう吐などの中毒症状を訴えて入院した」と報じました。輸入元のジェイティフーズをはじめ、スーパー、食品会社が当該製品の自主回収を始めました。冷凍ギョーザから「メタミドホス」という有機リン系農薬成分が検出され、いつの時点で製品に入ったのか、様々な調査が開始されました。

この事件(事故?)で、またいつものように、日本の食品行政の不備が指摘されつつあります。再発防止のために、日本の食糧自給率の向上の必要性や輸入食品の検査体制の不備、食品関連法の限界をはじめとして様々な問題点がこれから明らかになってくると思います。そして、どのような制度を設計すれば、このような問題の発生を最小限に食い止められるかということが議論されることになるでしょう。

このニュースを知って、すぐ思い出したのは今から20年以上前のスウェーデンの行動計画でした。スウェーデンの食糧自給率とともに、その行動計画の概要を紹介しましょう。

★食糧自給率

スウェーデンの食糧自給率は高く、主要産物は ほぼ100%を上回っています。穀物や豚肉は輸出もしていますが、野菜・果物・油脂の自給率は気候の関係で低い状況にあります。ご参考までに、2002年のスウェーデンの食糧自給率を日本の農林水産省の「食料自給表」からまとめてみました。

穀物自給率ほぼ120%(1961年:112%、2003年:122%)を誇る農業に関しても、スウェーデンは80年代後半から90年代にかけて、持続可能性を強く意識した政策を次々に打ち出しました。


★1985年の「食糧生産一貫政策ガイドライン」

スウェーデンの家庭が食品に対して支出する総額の50%以上が、スウェーデン国内の農業生産にかかわっているという調査報告を受けて、政府は「食糧生産一貫政策のガイドライン案」を国会に上程しました。1985年、国会はこれを承認しました。 

このガイドラインでは、「農業を食品原料の供給源である」と明確に位置づけ、これまでの農業政策に修正を加え、スウェーデン国内で生産される最終食品の質だけではなく、家畜への配慮、環境への配慮を優先する政策が、その第一歩を踏み出したのです。 

ガイドラインのなかで初めて、食糧生産の場となる「環境」と食糧生産の源となる「資源」に対する目標を掲げました。その要点は、農業と食品生産のためには、良好な環境が必要であると同時に、スウェーデンの天然資源を長期的にしかも計画的に管理していく必要があるというものでした。


★1986年の「農業および野菜の新しい生産形態に関する研究プログラム」

1986年春、国会は政府の「農業および野菜の新しい生産形態に関する研究プログラム」を承認しました。このプログラムでは、食品の原材料を提供する農業生産の改善に重点が置かれました。加えて、食品の原料となる農産物の生産から消費者に至る、フード・チェーンのすべてをカバーする研究も開始されました。食品生産の関係者にとっては、消費者に良質の食品を供給するために、それぞれの責任を分担することが要求されます。

農家は、人間、家畜および環境に危険性のある物質を生産に使用しないように注意を払わなければなりませんし、食品加工業者は食品の品質を保証するような生産活動を行なわなければなりません。

同時に、輸送会社や流通会社も、それぞれの責任を分担しなければなりません。公的な行政機関、研究者、消費者もこの計画に積極的に参加し、安全な食品を供給するために、それぞれの関係者がどのようなことに留意したらよいのかを示すことができれば、なおよいでしょう。



このような行動計画が国会の承認のもとに20年以上前に行われていたことに驚かされます。まさに、予防志向の国と治療志向の国の差と言ってもよいでしょう。悪意のある行為に対してはどのような制度も十分とは言えませんが、人間の行動が常識的なものであれば、制度の充実で食品関連の事故は最小限に抑えることが可能です。






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