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アートネタなど日々のあれこれ

クリスト ウォーキング・オン・ウォーター

2021-01-04 22:19:08 | 映画
ユーロスペースで「クリスト ウォーキング・オン・ウォーター」を見てきました。

昨年5月に亡くなったクリストが、2016年に実現したプロジェクト「フローティング・ピアーズ(浮かぶ桟橋)」をめぐるドキュメンタリーです。クリストと妻ジャンヌ=クロードによるプロジェクトというと包む系がよく知られていますが、このプロジェクトはイタリアのイゼオ湖上に敷かれた巨大な布の上を人々が歩くというものです。何だか聖書の光景のようですよね…。はたしてこの大規模プロジェクト、いったいどんな展開を見せるのか…(以下、ネタバレ気味です)。

この映画を見てまず思ったのは、クリストって本当に人気者だったんだなということ。とにかく行く先々で人々が寄ってくるのですが、実に気さくに対応。カリスマ性と率直さとを兼ね備えた方だったようです。とはいえ芸術家ですから、気難しいという感じではないものの、こだわる所には徹底的にこだわります。クリストは芸術家には定時なんてない、24時間芸術家だ、と語っていました。彼の大規模プロジェクトの資金は自前で賄っていたようです。自分の描いた絵を売って資金を稼いでいるのですが、売買の交渉をしている場面も生々しく映し出されていました。

さて、このフローティング・ピアーズは1970年にジャンヌ=クロードとともに発想した作品だそうですが、実現までに半世紀近くかかったのですね…。その間、2009年にジャンヌ=クロードが亡くなっています。このプラジェクト、実現するとまさに夢のような光景なのですが、その舞台裏は大変なことになっていました。芸術性と安全面、資金とのせめぎ合いです。こういう大規模野外プロジェクトともなると天候にも大きく影響されますし、行政との折衝も必要になってきます。関わる人々にもいろいろなタイプの人がいますが、クリストは明確なビジョンと強い意志を持ってことを進めていきます。プロジェクトの危機はプロジェクトが盛況すぎ、客が集まり過ぎてしまったことによって生じました。このままでは安全が確保できない…そんな最中、観客の6歳の女の子が迷子になるというハプニングが…。

アートを創る人、関わる人々、受け手となる人々…それぞれの思いが時に一致したりすれ違ったりしながら、絡み合い、それぞれの心に何かを残していく…。クリストの「作品」は一般的な芸術作品のように形として残るわけではないし、「儲け」になるものでもありません(入場料は取っていません)。そこまでして人の心に何かを残そうというクリストの情熱がすべてといっても過言ではないのかもしれません。本当に稀有な人、そして、その人はもうこの世にはいない…そのことを思い知らされた映画でした。
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