アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

最期の審判員

2007-01-30 20:52:00 | 思い
昔から子どもに関心があったものだから、図書館やスーパーや、地域の行事などに行ったりすると自然とそこにいる子どもたちに目を留める。もっともそのような場所に顔を出す子らはいわゆる「健康児」が多いわけなのだが、しかしよく観察するとどうも少し、いや、そんなことないかな、でもなんとなく様子が・・・と思ってしまうことが度々ある。
落ち着きがない子、むやみに走り回る子、親らしき人の袖を引っ張り際限なく駄々をこねている子、まるで猿を野放しにしたように勝手気ままに暴れまわる子、そうかと思えば極端に萎縮して縮こまってたり、およそ子どもらしくないほど感情を表わさない子もいたりする。元々子どもとはそういうもんだよと見れば、確かにそう見れなくもない。でもそうかと言ってじゃあ自分が子どもの時分は、と思いを巡らしてもどうも今ひとつピンと来ない。それは今とは視点が対極の位置にあるのだから当然か。でもこのところの異常すぎる気象のように、昨今の子どもたちの行動も随分と極端になり始めているような気がする。しかもそれがなにかとても薄暗い、病的なものを潜めているように感じるのは私だけだろうか。
実際現代の子どもたちには神経に起因した疾患がとても多いと言われている。多動性障害、学習障害、情動障害などという言葉は日常当たり前のように耳にするようになったし、未だかつてないほど早産や死産、奇形児出産、また子宮内膜症や子宮筋腫などの生殖器官に関わる疾患が増えているのだという。またこれも最近時々耳にすることなのだが、世界的に男性の精子数が減少して、子ども自体が生まれなくなってきている。日本を始めとした各国の調査では、男子一人当たりの平均精子数がこの30年間で半減したということだ。しかしこれは、よくよく考えてみればとても恐ろしいことだと思う。子どもが生まれなければ人類に未来はない。どのような現象にも必ず原因があるはずだ。その原因を突き止めて早急に然るべき対処をしない限り、私たち人類は今世紀を最期にこの地球上の歴史から忽然と姿を消すことにもなりかねないという現実を、目の前に見せつけられているのだ。私たちはそんなに悠長に構えていられるのだろうか。

脳神経系や生殖器に失調をきたす原因物質にダイオキシンなどの環境ホルモンが関与していることは、今から30年も前に発見された事実だ。米軍がベトナム戦で用いた枯葉剤がその発端となっている。PCB、DDT、ダイオキシン、ビスフェノールAなどの化学物質はそれ自体が農薬として使用される他、プラスチックなどの化学製品の焼却、車の排気ガス、重工業の製造過程などで大量に産出されて、日々大気中に放出・拡散されている。それが雨とともに地表に降り注ぎ、土壌や水系を汚染しながら魚介類の食物連鎖を経て、最終的にはその多くの部分が私たち人間の体に取り込まれる。もちろん呼吸や皮膚接触を通しても人体には吸収される。
環境ホルモンと呼ばれる物質の最たる特性は、生体内に入るとごくごく微量でありながら、擬似ホルモン的機能を発揮して内分泌作用を攪乱してしまうことにある。特に女性ホルモンのエストロゲンに似た作用で生殖器官を狂わせることが問題視されている。昨今とても多い生理不順や生殖器関連の病気、男子の精子数の減少などは、これら化学物質によるところが極めて大きいと推察される。それになぜかこれら毒素は、人間の居住しない極地や遠洋などの生物(ホッキョクグマ、アザラシ、クジラなど)の体内からも非常な高濃度で検出されている。だから今ではもう、沿岸の魚も遠洋の魚も等しく毒物を体内に内蔵しているのである。人類は過去数十年間かけてこれらの物質を量産し、ついにはこの地球をすっぽりと覆いつくすほどに拡散させてしまったのだ。

もうひとつこれら化学物質(環境ホルモンに限らない)に共通した特性としては、母体の胎盤保護機構を難なく通過してしまうということだ。通常母親の体内には、胎児に対する有害効果を排除する目的で、外界から進入した異物をブロックする機能が備わっている。それは「血液脳関門」や「血液胎盤関門」と呼ばれるものなのだが、それらは協調しながら、人類の過去数百万年の歴史において自然界の毒物、無用なタンパク質類を完璧にシャットアウトしてきた。
しかし人間が作り出した化学合成物質には非常に微細な分子構造を持つ物が多く、脂溶性という性質と相まって、なんとこれら母体の保護機構をスルーパスで抜けてしまうのだ。結果、現代の胎児はほとんど例外なく、数え切れないほどの化学物質に汚染された状態で発育することとなった。現実にへその緒や胎児からもビスフェノールAやダイオキシン、PCBやカドミウムなどの物質が、中には母体よりも高濃度の状態で検出されるのだそうだ。母体が身を削ってあらゆる栄養素を胎児に注ごうとする子孫形成の機能が、こうなると完全に裏目に出ているとしか言いようがない。
現代の若年層に多く見られる性的倒錯、精子数の減少、また先天的アレルギーなどの原因の一端が、ここにあるとは言えないだろうか。例え母体には影響を及ぼさないほどの分量でも、体組織の発達が未熟な胎児には充分に致命的なものとなりうる。それが時には遺伝子の構造変化や破壊をも引き起こしてしまうとすれば、それは単に一過性の疾患に留まらず、世代を超えて人類の末代にまで受け継がれる遺伝因子となってしまうのである。こうなればもう、それを見過ごした私たちの呵責は未来永劫拭われることはない。また物質の中には体内残留期間が10年を越すものもあるので、胎内や幼児期に取り込んだ微量の環境ホルモンの影響を、子どもは大切な成長期全般に亙って蒙ることになってしまう。それは各種アレルギーや、あるいは脳神経障害などの具体的な形となって現れることもあるのだ。
ほとんどの化学物質がそうなのだが、その作用は決してひとつだけというものではない。例えばビスフェノールA。エストロゲン様に母性ホルモンを攪乱する物質として働くかと思えば、場合によっては脳内伝達物質を減少させるなどして脳神経機能そのものにダメージを与えたりもする。ラットを使った実験では妊娠中の母ラットにビスフェノールAやスチレンを投与した結果、それから生まれた子ラットに本能的習性の欠如、落ち着きの無さ、注意力散漫、学習障害、情動障害などが観察されたという。しかしこの症状は、今や広範に見られるようになった人間の子どもたちの行動習性にどこか似てやしないだろうか。
今や人類という種は、その生殖機能と子孫という、種の存続にとって最も枢要な部分を自ら開発した化学物質によって犯されてきている。このような重大な事実を、なぜ政府は公言し、それに対する迅速な法的措置をとらないのだろうか。仄聞するところによると、それは未だ原因物質の特定とそのメカニズムが明確に示されていないからなそうだ。またそれに乗じて、食材、日用品、農薬メーカー、添加物メーカーなどが裏に表に圧力をかけて、政府の規制に待ったをかけているとも聞く。確かにそれらの業界は経済界でも重鎮の位置にあるし、またテレビやラジオ、新聞のスポンサーともなっているのでマスメディアに対する影響力も抜き差しならないものがあるだろう。しかしそれらの因果関係が水俣病やイタイイタイ病のように明らかな形で実証されるのは、まだまだ先のことになりそうなのである。それだけ化学物質の世界は種類が多すぎて(現在工業生産されている化学物質はおよそ10万種)、その作用も複雑で多様性があり、加えて他の広範な物質との相互関係の中にあるものだから科学的な証明にはかなりの時間がかかるのだそうだ。しかしいったいそれまで、私たちは待てるのだろうか。

これら環境ホルモンであるビスフェノールAやスチレンといった物質は、実は私たちが日常使うプラスチックや発泡スチロールに含まれている。また環境ホルモンとして初めて認知されたノニルフェノールという物質も、同じくプラスチックに含まれる物質である。これらは例えばカップ麺の容器、スーパーの惣菜や弁当の器、その他身の周りを見渡せばたぶん目に入らないことはないだろうほどに氾濫している私たちの日用品に数え切れないほど使われている。それらは容器から食品に浸出して口の中へ、または皮膚接触や磨耗によって経皮的に、あるいは肺から吸入されて微量ながらも継続的に人体に入り続けている。しかし環境ホルモンにとって量はさほど重要ではない。なにしろ1兆分の1グラム(ppt)レベルで確実に人体に作用するのである。本当に恐ろしい物質だ。今地球上くまなく汚染された状態では、私たちの誰であれ例えどこに住もうと、それを完全に防ぐことはできないのだと思う。

だから私たちは、今すぐにでもその発生源である、プラスチックや農薬、界面活性剤などの使用をやめるべきなのだ。誰もが買わず使わないならば、メーカーも当然作るのをやめざるをえない。残念ながら事これに関しては、法による規制を待ってはいられないのだから。もしそれを待っていたのでは、その前に人間の側が脳神経を犯され知能障害を起こし、終いには何が何やらわからなくなって、滅びの道筋を確定化してしまうのである。哀しいかなその兆候が、もう既に出始めていると言っても過言ではない。
しかし理論的にはどうあれ、この選択は本当に勇気が要るものだと思う。農産や食品加工に関しては可能な限り化学物質を排除しているつもりの我が家においてでさえ、では家の中からプラスチック製品を全廃するとなると、さて、どうしたらいいかと正直頭を悩ませてしまっている。例えば食器や農機具、各種の道具などは昔ながらの物を大切に使い込んでいるのであまり問題が無いのだが、でも毎年大量に仕込む漬物の容器などはどれもプラスチック製である。これを昔のように大きな漬物甕に置き換えたとしたら非常に重くて扱いにくいし、そもそも今となってはそれらを手に入れるのが難しい。また脱穀した米穀は一般の農家と同じように、ビニール製の籾袋に入れて保存している。昔は木の柩に入れたのだそうだが、じゃあそれをやるかとなると、本当に気を病むのである。もうひとつ言うと、家具や衣類の大部分は他所からの頂き物(おさがり)で賄っているのが現状だけれど、その中にはプラスチックやビニールを含む製品がとても多いのである。
話を戻すとこのビスフェノールAという物質は、今やあらゆる農産品、食品、加工食品、並びにほとんどすべての人体から検出されている。その原因は公式には「不明」ということになっているが、結局のところ農産段階から食べものとして口に入るまでほとんど途切れることなく使われている保存や包装、加工装置や運搬具に用いられている多種に亙るプラスチック製品が原因であろう事は論を待たない。ただあまりに該当するものが多すぎて、かえって原因が特定できないでいるのだ。
だから私たちは、この際心底から勇気を振り絞って、決断した方がいいのだと思う。洗濯や洗髪には昔ながらの石鹸を使おう。衣類は綿を主体とし、使い捨ての製品を無くしてどれも大切にまめに洗濯しながら使い続ける。口に入るものは多少高くても、化成肥料や農薬、食品添加物を使わない食材を自宅で調理して食べる。味噌や豆腐は容器持参で買いに行く。そして日用品から可能な限りプラスチックを排除する。こうすれば私たち人類は、もしかして次の世代に生命を繋げることができるかもしれない。事は自分一人に限ったことではないのである。

話は変わるが、わが家は農地、庭、住居を含めて敷地内は全面禁煙としている。しかし現実は田舎なものだから、数ある隣人訪問者の中にはいくら注意しても強引にタバコを吸おうとする者がいたりもする。その場合どうしようもない時は、私はその人たちを実質的に「出入り禁止」にするのである。元より人間関係に波が立つのは覚悟の上。なぜなら因みに、タバコの煙にはダイオキシンやホルムアルデヒド、窒素酸化物などの有害物質と断定されるものだけで約200種類が含まれていると言われている。そんな物を狭い室内で発散されたならば同居の人たちに対する健康被害は言うまでもないし、それらを大気中に拡散させることイコール地球生命体全体に対する重大な脅威に繋がることになる。本来喫煙は、家庭でのプラスチック焼却と同様に早急に禁止しなければならない類のものなのだと思う。だから事は、決して私一人が我慢すればいいということではない。人間としてなすべきことがあるのならば、時には心を鬼にして、仮にそれによって自分が不利益を蒙るとしてもそれはしなければならない。それは知ってしまった者の重大な責任とも言える。「知る」とは本来そのようなことなのだと思う。
今環境ホルモンや合成洗剤、プラスチック製品の害ということに関しては、山間のムラでテレビも新聞もラジオもなしに暮らしている私でさえこのようにしてその情報の一端に触れる機会があるのだから、ましてや世間一般の人たちの方が私なんかよりも圧倒的な情報量を持ってると思う。だから本来こんな場でこのようなことを言う必要などまったくないのかもしれない。でも同時に私は、人間というものはとかく自分に不都合な物事に関しては、それが例え直前を横切ったとしてもあえて目を背け、それに触れた記憶さえも一瞬後にはきれいさっぱり忘れ去ってしまうものだということを知っている。だから中には、こんな情報に初めて出会った!という方もいるのかもしれない。
でもどのような理由や事情を持つにせよ、毎日コンスタントに大量の合成界面活性剤を下水に流し込み、今までと同じように便利なプラスチックやビニール製品を使い続け、隠れてゴミを燃やしたりまたは面倒くさがって分別しなかったり、農薬や化成肥料を使う農産行為を助長するような食品の購買の仕方をするのは見直さないとならない。それをするということはつまり、半ば肺ガンになりかけた人の前でタバコをプカプカと喫うのとなんら変わりはない。しかもその目の前の人は他ならぬ自分自身なのである。お金を儲けるために、今持っている偏った嗜好や欲を刹那的に満足させるために、人類の存続を犠牲にして果たしてよいものだろうか?それは子どもでも判断がつくことだろうと思う。ただしそれをするには本当に大変な勇気と決断が求められるということは、私だって知っているのである。

地球上のあらゆる生命を含めて人類が存続するかどうか、その鍵を握っているのは、今ここにこうして生活する私たち自身であることを肝に銘じなければならない。今や私たちはその一人一人が、この地上に最期の審判を下す審判員なのだ。



【写真は最期の審判員3匹組。実はこれに関する適当な画像がなかったのであった。】



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