ミーコが生きていた頃、私が庭で仕事を始めると、彼女はいつもどこからか現れて、私のそばにやって来た。農家には、重いものを動かしたり刃物を振り回したりする仕事が多い。薪作りにしろ大工仕事にしろ、猫などにそばへ寄られては危なくて困るのである。しかし齢20を越え、世の中のすべてを知り尽くした彼女にとっては、それはいかほどのことでもないようだ。鉈を振り回していようが、丸鋸を走らせていようが意にも介さず、われ . . . 本文を読む
家の裏に、前から生えていた二本の木がある。クリとクワ。あの時この家に越してきた住人たちと同じようにまだ若かったその木々も、今では見上げる大木に育っている。その枝の下に立ち、タオルケットに横になったミーコを腕に抱えて、私は語りかけた。ほら、ミーコ。ここでおまえは遊んだな。ホルスと一緒に。二人でこの木に登ってよく遊んだな。
23年前、私は手のひらに載るほどの二匹の子猫をつれて、この家に来たのだった。
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ここでまず、「猫」とは一体どんな生物なのかを見てみよう。
現在世界中で飼われているイエネコの先祖は、リビアヤマネコに行き着くといわれている。アフリカ北部からアラビア半島にかけての乾燥地帯に分布する野生ネコだ。ネコの身体の機能からして、明らかに森林地帯に起源がありそうなものなのだが、どうして砂漠やオアシスが点在する乾燥地帯なのだろうか。これについて私はひとつの考察を巡らせてみた。
サハラ砂漠が太古の . . . 本文を読む
ミーコばあちゃんはこの春が来れば23才になる。人間でいえば120才くらいかもしれない。獣医さんが、今まで見た最長齢の猫だと言っていた。私がこの家に越してくる際に、連れてきた猫の一匹である。その時は手のひらに載るほどの子猫だった。
彼女はお日様が差すと、よく外に出て日向ぼっこをする。目を閉じて弛緩した面持ちで。それは冬でも同じで、彼らにとっては戸外の寒さなど、お日様の心地よさに比べれば取るに足りない . . . 本文を読む
勝手口から外に出た。昼の陽光が目に痛く木々の葉陰も物置の黒い壁も白粉をまぶしたようにほの霞んで見えた。雨に打たれた昨夜の土は乾ききり、春の日差しに小気味よく萌え出でた若草が庭をふさふさした絨毯へと変えていた。スズメノカタビラ、シロツメクサ、ニワホコリ。どれもみな厚く凍った土の下で生き延びて、雪が融けた途端にニョキニョキと首をもたげてきたのだ。土は生きており、草は地球の生命そのもののような気がする . . . 本文を読む
今夜はコマリンが、ネズミを4匹捕えてきた。どれも私の指の長さほどの、この春生まれた子ネズミである。そうか、春は繁殖の季節なんだな。食糧を自給する我が家においては、ネズミが増えすぎると死活問題になってしまうのだが、でもこうしてうちの家族たちがちゃんとコントロールしてくれている。しかし一日に4匹とは凄い! もしかしたら私が気づかないところでもっと獲ってることもあるかもしれないのだが、しかし知る限りこ . . . 本文を読む
今日は折りよいこともあり、わが家のアポロについて話そうと思うのだが、
彼がわが家の家族になったのはちょうど2年前の夏(それは確か長らく続いた梅雨が明けたかどうかという頃だったと思う)、ある日ここにふらりと現れて私に激しく食べものをせがんだのだった。
山に捨てられた猫たちはみな一様に痩せこけて、栄養失調による皮膚病や蚤やダニなどに全身をたかられてる場合が多い。彼も例に漏れず背中を中心にして所々 . . . 本文を読む
社(やしろ)の前の、木漏れ日の中に車を停めた。ここは一応市道とは言うけれど軽乗用車がすれ違えないほどに道幅が狭い。それにこの道を使うのは僕と、この上にある2軒だけだから、日々の交通量としたって数えるほどしかない閑散とした場所だ。その中で一番この道を使っているのはたぶん僕になるのだろう。道路のど真ん中に停めた軽トラから飛び降りるなり、僕は思いっきり叫んだ。「シロチャ~~ン!」
ふと足元を見ると、道を . . . 本文を読む
晩方に玄関先でニャアと鳴く声がした。
出てみるとコマリンがネズミを咥えてタタッと駆け寄ってくる。
そうか、わざわざそれを知らせてくれたのか・・・彼女は私の脇でパリポリとそれを食べ始めた。
猫家の猫たちには大切な任務がある。
毎日たくさんの猫たちの面倒を見るのはある意味大変だけど、実は彼らはそれに見合った働きをちゃんとしてくれているのだ。
5年前に越してきた時、この家は廃屋になりかけていた。
病に . . . 本文を読む
タタタタ・・・とコマリンが後ろから駆けてきて前に回りこみ、私の足元にゴロンと横になった。
立ち止まった私の顔に折りしも朝の光が眩く突き刺さる。
見上げると山の端から幾筋もの銀の矢が降ってくる。高圧鉄塔が曙光に溶けこんで視界に入らない。今まさに陽は山頂にその上端を見せたところだった。
その時私は気づいた。
猫がゴロンと横になる時、道端に立ち止まる時、それは決してどこでもいいというわけではない。
彼ら . . . 本文を読む
私がこの家に越してきた時、猫が2匹ついてきた。
まだ幼かったホルスとミーコである。彼らにとっては初めての長距離ドライブ、峠道を右に左にと揺れる檻の中で心細そうに、ニャアニャアと泣き続けていたのを憶えている。秋の陽はとっぷりと暮れ、私はハンドルを握りながら待ってろよ、今少しで僕らの新しい家に着くからな、お前たちとこれから新しい暮らしを始める、もうすぐその家に着くんだからな・・・とずっと語りかけていた . . . 本文を読む
ある日の午後、私は買い物から帰って玄関の戸を開けた。
「やあ、寒い。寒い。・・・ただいま。留守番ご苦労さん。」
「おかえり・・・」
「あれ?アポロ、ちょっと元気が無いな。」
「・・・ううん。そうでもないよ。・・・」
「? ・・・あっ!アポロ、脇腹のところ・・・」
「う、ううん。なんでもないよ。」
「ちょっと、見せてみろ!」
「いや、あの、ちょっと・・・」
「これは・・・毛が焦げてるじゃないか! . . . 本文を読む
我が家の玄関には火鉢猫がいる。
茶箪笥の棚に置いた有線電話から朝の挨拶と6時のニュースが流れる頃、外はまだ暗い。最低気温はマイナス6度。そんな朝にも猫家の猫たちは元気だ。私が布団の中でもぞもぞしてると早く起きろとばかりに合唱が始まる。我が家では猫たちは冬でも戸外で寝かせている。
戸を開けると一斉に猫たちが雪崩れ込んでくる。今日の朝ごはんは玄米と鶏肉入り野菜スープ。ストーブの上で煮詰めた鍋にはカボ . . . 本文を読む
こんなことを言うと、自足農家を標榜する我が家において、おや?と思われるかもしれないけれど、
実は猫たちにやる食べ物には、3分の1くらいはキャットフードをとり混ぜている。犬のスヌーピーにはドッグフードを4分の1くらい。
かつて彼らを飼い始めた当時にはフードなどまったく入れていなかった。それがなぜこのように変えたかというと、それには若干の経緯がある。
今から3年前に、突然猫のホルスが病気になってしま . . . 本文を読む
今朝は本当に、びっくりしたよ、ロッキー。
玄関のたたきに餌皿を並べる。戸を開けると、堰を切ったように待ち構えていた猫たちが雪崩れ込む。でも今日はそれだけではなかった。
その中にお前がいたとは! 僕は一瞬我が目を疑ったよ。
最後にお前がこの家を出たのは、そう、7月だった。梅雨が明ける頃。迷い猫のアポロが来てからまもなく。だからもう、2ヵ月半は経って . . . 本文を読む