我が家は今脱穀の真っ最中。
米作りの過程で必要な作業は、多少の悪天候に関係なくやれるものが多い。田植え、水管理、除草、畦の草刈、稲刈・・・なにしろ稲作は基本的に「水田」をフィールドにしているから、例え晴れていても濡れるのを覚悟しないとならなかったりする。その中でコンバインによる刈り取りだけは稲が乾いていないと都合が悪いのだけれど、我が家では未だに鎌による「手刈り」なのでそれはまったく無縁の世界だ . . . 本文を読む
腰を立ててぐっと背筋を伸ばす。
秋の日差しが稲架の上に輝いている。稲刈は腰に来る。つい勢いに乗って根を詰めてしまうけれど、本当は一時間おきくらいに休みながらやるのがいいんだろう。
土手を見下ろして立っていると、ふと気配がして振り向いた。
僕のすぐ傍に、彼が立っていた。擦り切れた黒い学生服、毛羽立った帽子。彼は分厚い眼鏡の奥で目をふふっと笑わせて、少しだけコクリとお辞儀をした。
「随分、青くなった . . . 本文を読む
こうして暖かい炬燵にあたっていると思い出す。
あれは4年前。引っ越して来て最初の冬だった。
その頃我が家には真四角い小さな炬燵がひとつあるだけだった。それと芯が燃え尽きそうな古い石油ストーブ。いつも調子が悪くて燃えたり消え入りそうになったりを繰り返す、暖房器具としてはまったく当てにならないストーブを横目で見ながら、僕らは小さな炬燵に丸くなっていたもんだ。当時猫家の家族は、僕と友人、そして猫3匹。
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明日あたり炬燵を出そうかなと思っていたら、一夜明けた今朝、初霜が降りていた。
野や畑のところどころがフリーズドライ。まだ一面びっしり、というほどではない。
空を見上げたら障害物のまったく無い夜明けの大海原。放射冷却現象というんだね。今はこんなに寒くても、多分日中は暖かくなるんだろう。布団を干すのも、部屋を掃除して炬燵を出すのも今日がチャンス。
スヌーピーが飛ぶように掛け続ける。足裏が冷たいのだろう . . . 本文を読む
今日はとてもいい天気。猫家は家族総出で稲刈です。
「あぁ、いよいよ稲刈が始まったね。」
「そうね。本当に、猫の手も借りたいくらい忙しいワ!」
「いや、それを言うなら『タヌキの手も』だろ?
ほら、ちゃんとマルダヌキも手伝ってくれてるんだから。」
「なになに? アタシを呼んだのネ?」
おっっ!
「あ、マルダヌキ。いや・・・な、なんでもないんだよ。・・・」
「隠したって駄目ヨ。今、タ . . . 本文を読む
「えっ? マルダヌキ、学校を出てるの?」
「そうなのヨ。それも高等技術専門学校タヌキ山分校っていう、日本にもひとつしかない学校なのよ。」
「へえ~~っ! すごいんだねえ・・・」
「ふっ・・・。何を隠そう高学歴なのヨ。
高カロリー、高血圧、高学歴を、日本の社会じゃ『三高』っ . . . 本文を読む
トタンを打つ雨の音に耳を傾けながら、僕はいつしか寝てしまっていた。
2日に亙る雨で秋はめっきりその色を濃くし、冬がもうすぐ傍までやって来ていることを告げている。僕は確か先ほどまで机に向かって何か書いていたはずだったけれど、気がついたら足を伸ばして毛布を被っていた。
夢の中で僕は犬たちに囲まれている。猫ではない。けれどその犬たちは今の暮らしで僕といる猫たちと同一のものだった。
時は遡る。日付を一枚 . . . 本文を読む
先月のことなんだけど、
実は我が家の田んぼに市長が来た。
我が集落は行政的には「江刺市」という自治体に属している。岩手県の内陸部、人口3万人余りの小さな市だ。もちろん猫家の位置するところはその中でもずうっと外れ、北上山系の懐に抱かれたどん詰まりのような地形にあるのだが・・・
ある日、そんな鄙びた我が家に電話があった。市からだった。稲刈は終わりましたか?もしまだなら、よろしければ市長の稲刈体験を . . . 本文を読む
タインが軒下で大なきしてたお陰だよ
肩の高さに抱き上げて、僕らはそのまま日向ぼっこ
銀の花びら舞う昼下がり
僕らはぽっかり、淀みで秋の眠りに就いた
そう、あれから随分経つんだね
青い登山道 あの時の君
そうか、もう20年も経つんだね
黄色いカラ松並木 頬打つわくら葉
頭の芯から心奥へ向かうバニラのさざ波
細胞は痺れて遠い昔に還っていく
そうだった、こんなときもあったんだなあ
陽だまりのまどろ . . . 本文を読む
ふと思いついて、大根を一本抜いてみた。
9月1日に蒔いたたくあん用の大根。もちろん干すにはまだ早いのだけど、今日夕飯を前にしてなんとなく大根おろしが食べたくなったんだ。昨日捌いたチャボの肉が半分ある。大根おろしと鶏肉。とてもいい取り合わせだ。
抜いてみた大根は思ったより太かった。指で丸を作った太さ。嬉しい。年々畑の土が肥えていくみたい。
このまま行くと今年は立派な大根がたくさん穫れるな。
近所の . . . 本文を読む
中途半端だと思うこともあるけれど
それは比較した状態の中で生まれる見方であって
普遍的なものではない。実際
あらゆる状況を「中途半端」に見ることだってできる。
今の自分、やはり中途半端に見えるけど
それは当たり前のこと。そう見てもいいし、そう見なくてももちろんいい。たいしたことじゃないんだよ、そんなことは。
今は今の状態で釣り合っている。
蕾が花開いて満開に咲き誇る。
そのどの段階を中途半端だ . . . 本文を読む
暮らしが体の健康を作るわけではなくて、
思いが暮らしや体に表れている。いつも僕はそう思う。
だから今健康じゃない人は、例え住む場所を変えたって食べものを変えたって、決して健康にはならない。
人の体の状態や体質が変わる時ってのは、必ずそれなりに「発する思いの変化」があるものなんだ。その変化が激しければ激しいほど、暮らしなり体調なり人間関係なりがドラスティックに変わっていく。
そう、始めに「思い」あり . . . 本文を読む
こんなことを言うと、自足農家を標榜する我が家において、おや?と思われるかもしれないけれど、
実は猫たちにやる食べ物には、3分の1くらいはキャットフードをとり混ぜている。犬のスヌーピーにはドッグフードを4分の1くらい。
かつて彼らを飼い始めた当時にはフードなどまったく入れていなかった。それがなぜこのように変えたかというと、それには若干の経緯がある。
今から3年前に、突然猫のホルスが病気になってしま . . . 本文を読む
今朝は本当に、びっくりしたよ、ロッキー。
玄関のたたきに餌皿を並べる。戸を開けると、堰を切ったように待ち構えていた猫たちが雪崩れ込む。でも今日はそれだけではなかった。
その中にお前がいたとは! 僕は一瞬我が目を疑ったよ。
最後にお前がこの家を出たのは、そう、7月だった。梅雨が明ける頃。迷い猫のアポロが来てからまもなく。だからもう、2ヵ月半は経って . . . 本文を読む
今日は朝からどんよりと曇っている。
いつ降り出さないとも限らない天気だ。でもここ数日晴れ間が続いたせいか空気はどことなく乾いている。地面も堅くなって来たし、この分だと少なくとも雨が降るまでは働けそうだ。我が家は懸案の稲刈も先週終えているので気持ちが軽い。
そこでキクイモを掘ってみることにした。
キクイモとはキク科の植物で、その名の通り根の先端に塊根を作る。元々はアメリカインディアンが食用として . . . 本文を読む