おはようさんでがす。
濡れてしまいすぞ。・・・
目を上げた土手の上に、田向かいのおばさんが立っていた。
カッパに長靴、朝仕事から帰って来たところだろう。手には長柄の鎌を持っている。
ふと見回したら、一面霧雨が降っていた。
気がつかなかった。私は苗を片手にもう片方の手の甲で腰を抑え背中を伸ばす。
どうも・・・ご苦労様です。
もう少しで終わる . . . 本文を読む
山里に季節はゆっくりと、牛のように歩みを寄せる。
昨日は本当に「初夏」を思わせる暖かさだった。お陰でこの里も今ではほとんどの田に稲が小さな頭を覗かせている。ようやく我が家の田植えも終わった。
今年は7畝(1反が1000㎡で、その7割)しか作らないから、田植えと言っても機械を使えば1時間もかからない。ただそれまでに持って行くのが春の大きな仕事で、堆肥撒布、耕起、代掻きと天候を見ながら土を動かす。 . . . 本文を読む
建物ん中でも場所によっちゃ零下20度近くなった。死んだ奴ぁ通路に置いておく。初めのうちぁ毎日穴掘って埋めてたけどよ、一日に4ったり5たりも死ぬもんだから、とてもしんどくて追いつかない。土ぁガッチリと凍ってんだ、つるはしでないと歯が立たねえ。通路に出しときゃすぐ凍っちまうもんだから、まずセッカ板で棺桶こしらえてよ、そん中に入れといて後で纏めて葬る。木の隙間から中が覗いて見える。オレたちゃあ、 . . . 本文を読む
寒波は去ったんだろうか。今日は久しぶりに暖かな陽気になった。
このところの低温で地面がとても冷たい。5月のこの時期になってこんなに寒いことは、このムラに移り住んでから初めてかもしれない。以前北海道にいた時に5月20日に遅霜が降りたことがあったけれど、あの時は一晩のうちに降りた霜で、芽吹いたジャガイモが悉く枯れてしまった。そんなことを思い出しながらつい数日前には、もしかしたら霜が降りるかもしれない . . . 本文を読む
ああ・・・きれいだね。
そうだな。・・・
なんだか天国にいるみたい。
こうして見てると、目が回りそう・・・
ひさかたの 光のどけき春の日に・・・
えっ?
しづごころなく 花の散るらん
なにそれ? スヌーピー。
うん、これは昔の歌で、
桜の花が散るのを見て心が騒ぐ、と詠ったものなんだよ。
へえ~~~。なるほどなあ・・・
しづごころなく・・・
あぁっ! . . . 本文を読む
お前はすぐに僕の腕の中に収まった。その時でもちゃんとそこが自分の指定席だと知っていた。この朝僕がこの道を通るのも、山道を埃を巻き上げながら駆け下る車が自分の真ん前で停車するのも、何もかもそうなることがとっくの昔にわかっていたかのように、お前は大人しくすべてを預けて僕の腕に抱かれた。その時お前の伝えたいことは僕にわかったし、僕の言うこともお前はわかっていたに違いない。
それはお前の哀しい . . . 本文を読む
ホルスに会いに行かないと・・・
俄かにそのことを思い出して、僕は朝食の箸を置く。ずっとずっと前から思っていたことだった。忙しさにかこつけていつの間にか過ぎ去ってしまったひと纏まりの時間。今を逃せばこの先また何ヶ月か経ってしまうかもしれない。ちょうど外はまだ午前中だというのに薄暗くなり、今にも雨が降り出しそうな空模様だ。よし、行こう。僕は丼に残ったご飯を一気に平らげて、出かける支度を始めた。
運転 . . . 本文を読む
庭の遅咲きの桜もやっと5分咲いた。
春である。野に出ても山に入っても、気を付けて見れば至るところに春の色が踊る。畑などは一面黄色い菜の花で埋め尽くされた。
我が家の隣りの野原はなぜか広大なわらび畑になっている。もちろんわざわざ育てているわけではない。手入れと言えば年に一度の草刈をするだけで(それもわらびのためにするのではないけれど)、毎年春になると無数のわらびが顔を出してくれる。お陰で猫家ではこ . . . 本文を読む
(前略)
芭蕉、明に藤沢の宿を発ちて湘南の浜に至れり。
ふと彼方を見やると、高波の間に間に漂うものあり。
驚きあやしみて詠める歌。
江ノ島や タヌキもすなり さぁふぃん
さすが当世流行の地はかくもあらんといたく心に留めけり。
・・・そんなんじゃ、ないのヨッ!!!
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朝一番に大鍋に湯を沸かし、鶏を煮出す。
今日は彼らの食事に鶏汁をかけてやろう。
少し湯気の立つ餌皿を三つ抱えて玄関の戸を開けると、
待ってましたと、堰を切った水のように猫たちがなだれ込んで来た。
・・・
やはりいない。
・・・
私は戸外に出て生まれたての大気に身を浸しながら
大声で叫ぶ。
「レオーーーーーーーッ!」
* * *
彼は少し神経の . . . 本文を読む