近年、日本の借金が膨張している問題が注目されているが、借金の額だけを出されても数字が大きすぎていまいちピンと来ない。
それに、例えば同じ100万円の借金をするにしても、年収100万円の人と年収1000万円の人では額が同じでも重みが違う。
アメリカのオバマ政権が積み上げている借金は半端な額ではないが、アメリカと日本では経済規模が違うので数値だけで単純比較はできない。
借金の額が大きくても、経済力がそれに応じて大きければ問題ないのである。
(収入でなくても資産を持っていれば問題ない。これは後述。)
では、日本の経済規模(GDP)に比べて日本の借金がどの程度なのか、1800年代後半からの推移をグラフにしたものが東大の岩本氏のブログに掲載されているので紹介しよう。
(以前も騒がれたが今回2010年度のデータ分がUpdateされた。)
日本の借金は、歴史的にみてどのくらいの規模なのか。
(これは必読!是非リンク先へアクセスしてください。)
国の借金973兆円 (岩本康志)
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/32078272.html
2010年度の名目GDPは,1月22日に閣議決定された「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」によると,475.2兆円。対GDP比は205%になる。第二次大戦期のピークは1944年度の199%なので,それを超える。
環境が違うとはいえ、今の日本の借金は太平洋戦争末期の1944年と同レベルである。
岩本氏の計算によれば、2010年度にはついにそれを超えてしまうようだ。
このグラフと話だけ見ると、絶望的な数字に見えてくる。
ちなみにこの数字は先進国最悪の数字だ。
状況としては、「今まさに戦時中」である。
当然ながら、様々な機関が日本の財政赤字に対して警鐘を鳴らしている。
※
「この赤字は消費税を数十%上げないと解決できない。」類の提言をいつも見る。
にも関わらず、なぜかこの財政危機説についてあまり騒がれていない。
本来ならもっと注目されていいはずである。
これには幾つかの理由が考えられているが、専門家の間でも意見が割れていることが大きな要因であろう。
世の中には「財政赤字フィクション派」という人達がいて、日本は借金も大きいが資産も大きいので差し引きすると、それほど絶望的な借金額ではないと主張しているのだ。
(実際に計算してみた高橋洋一氏が言うのだからある程度信憑性はあるのだろう。)
彼らによれば、財政危機説を裏で操っているのは財務省だという。
国の財布を預かる財務省には、財政の健全化を至上命題とする「増税バイアス」が働いており、増税する機会を常に狙っているというのだ。
政府の規模を際限なく大きくしていくのではなく(増税ではなく)、経済成長による税収アップで増税を回避すべきだという意見は、ある程度説得的でもある。
(これは小泉・竹中改革路線でもある。今なら「上げ潮派」と呼ばれる人達の考え方だ。)
しかし、これに対する批判も当然ながらある。
借金の額が低い経済成長率による税収アップでは取り返せない水域に達していることや、少子高齢化の日本では政府支出は増加する一方、経済が大きく成長する期待が持てないため、大幅な増税しか方法がないということがある。
借金(国債発行)がどこまで可能かという問題ももちろんある。
財政危機説をとなえる人達は、もうすぐ限界がくると主張している。
国債が暴落する可能性があり、暴落した場合、日銀が国債を買え支えると思われるわけだが、その副作用で貨幣の価値が暴落し、ハイパーインフレが起きるというのだ。
ハイパーインフレで借金が無効化される代わりに日本に眠る貯蓄は全て吹っ飛ぶ。
紙幣は紙切れになるし、せっかく溜め込んだ残高は気づいたら無意味になる。
わかりやすくいえばジンバブエになると思えばいいだろう。
実際、戦後の日本ではハイパーインフレで借金を棒引きしたわけである。
(グラフで戦後急降下しているのはそれが原因)
(今が戦時なら、もうすぐ戦後か。)
国債が暴落するかどうかについても意見が分かれている。
TVによく出てくる元ミスター円こと榊原氏なんかはまだ借金できるから国債発行して不景気を乗り切れと主張しているし、その一方で多くの経済学者はいつ国債が暴落するか戦々恐々としている。
ちょっと難しいのだが、下記のブログで長期金利の上昇がどのように起きるか説明されている。
信用とデュレーション - 長期金利はどのように上昇するか(投資の消費性)
http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20100127/p1
いやね、自国の国債が安全だと言われてるのは合ってますよ。でもね買い支えろとは、少なくともBISには言われていない。年金や保険も、自国の国債が無難だよねとは言われているが、買い支えるべしとは誰も*4言っていない。彼らが守るべきは第一に、預金者の、保険加入者の、年金加入者の、財産だからだ。国債を売ったお金はどうするの?と思われるかもしれない。だって株買ったり、外国に投資したりすると、怒られたり、面倒な説明が必要だったり、ペナルティを喰らったりするもの。ええ、もちろんまた国債を買うんですよ。でもね、違うんだな。より償還が近い国債を買うんです。返済までの長さが短いものを。こういう動きを「デュレーションの短期化」と呼ぶ。
なぜすぐに償還される債券を買うのかといえば、より長いものと比べて、発行体の「信用」が毀損されることの影響を、あまり受けないから。だってそうでしょ。明日返してもらえる借金の値段は、5年後の財政が危ういからといって、それほど劇的には下がらない。そして皆がこうした行動を起こすと、より長期の金利から水準が上昇してくる。イールドカーブが立ってくるのだ。これは本当に怖い。
[中略]
原口大臣は年金運用を改革すると意気込んでいるし、第一生命は株式会社になるらしい。大口の投資家が、今よりも資産の評価に敏感になる*5とき、より信用の毀損を気にするとき、横並びの大好きな連中が一斉に短期化に走ったとしても、まったく不思議とは言えない。財務省が主催している国債投資家懇談会を、覗き見してみよう。その大口の投資家の方々が、我々の代理人が、あまりにもイノセントなことに僕だって驚く。一方で、あまり大きく報道されていないが、国債全体のデュレーションは、しれっと長期化されてきている。そう、財務省はわかっているのだ。いまのうちだ。
借金して無駄遣いするのはやめよう。景気は決してよくない。悪い金利上昇は、勘弁して下さい。
長期金利がジワジワと上がりはじめて、ある臨界点を超えるとリーマンショックの時に見られたように、突如として全員が売りに走ってジ・エンドである。
それが何時来るかは誰にもわからない。
来るかわかった時がその時。
「信用」っていうのはそういうものなのである。
バブルも同じ。
ファンダメンタルズはあまり関係ない。
だから専門家の間で意見が分かれて、一般に危機感が薄いのは、本当のところは誰にもわからないからなのではなかろうか。
事後的に「予言した専門家」などと騒がれるかもしれないが、実際のところどうなるかわかっていないのだ。
むしろどうなるかわかりたくないのかもしれないけど・・。
まずはブラック・スワンを読み返そう。