とても楽しいクラシック音楽の動画に出会った。原曲を相当崩してハチャメチャな演奏になっている。モーツアルト(1756~1791)のセレナード6番「セレナータ・ノットルナ」(K.239)、小規模で軽めのオーケストラ曲である。モーツアルトが20歳の時に作曲され3楽章からなっている。原曲そのものが優雅かつ快活で、モーツアルトには珍しいティンパニーが加わって力強い行進曲風の曲になっている。同時に、曲全体がユーモアに溢れていて、おそらく彼の作品ではその筆頭とみてよいだろう。
特に最後の楽章でその魅力が全開しているが、この動画は終楽章のみの演奏だ。これを有名なドイツの指揮者カール・ベームによるもの(全楽章演奏、終楽章は動画では7分40杪辺りから)と比べて見ればその「悪のり」の度合いがよくわかる。この楽章はロンド形式といって同じ旋律が途中何回か出てくる形式であるが、その合間でいろんな楽器が我がもの顔に登場して即興風にアピールする。
最初コントラバスが、優雅な曲の流れに逆らうようにしゃしゃり出る。再び快活な旋律に戻るが、今度は3人のヴァイリンとヴィオラの奏者が癖のあるコミカルな音を奏でる。二人の女性に間に位置するリーダーと思しき親父が、いかにも何かを仕出かすようにコテコテの演奏を時々繰り返す。そして最後はティンパニーがまるで和太鼓風に悦に入ったように独演する。
その後は何もなかったようにもとの快活な旋律が戻って締めくくられる。聴衆がこのオーケストラの「仕掛け」に大満足だ。途中の悪のりに爆笑が湧くが、演奏が終わった途端に盛大な拍手、大喝采だ。
おそらく、モーツアルトがこの演奏を聴いていたならば「このヤロー、オレの曲をこんなに崩しやがって…」と舌打ちするかもしれない。しかし、目は笑っているのではないか。
当時、モーツアルトは出生地オーストリアのザルツブルグで、領主であるコロレド大司教の元で音楽活動も隷属を強いられた。融通の利かない堅物の主人の命令で作曲をする息苦しい日々、モーツアルトは後に音楽の都ウィーンに移り自由な創作活動をすることになるが、「ザルツブルグでは机や椅子に向かって演奏するようなもの」と回想している。
そんな音楽環境でもモーツアルトの天才性はいかんなく発揮され、こうした楽しくユーモア溢れる曲が作られている。当時これを聴く聴衆がまるで「机や椅子」のような存在でなかったら…。おそらく、特に気晴らしといってもよい曲だから、彼自身こんなに賑やかな演奏をしたかったにちがいない。
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