粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

中島啓江「千の風になって」

2015-06-03 21:45:29 | 音楽

この名曲、数多くの歌手が歌っているが、自分の好みで言えば、新垣勉と中島啓江がベストだと思う。共に歌唱力が抜群だが、それ以上に歌詞に心を込めて歌い上げている。

ただ上手に美しく歌う歌手がよいとは言えない。やはり、最後は人の心を揺さぶることができるかにかかっている。その点、この二人の歌手は文句なく聴く者の魂に強く訴える力をもっている。

このうち、中島の方は昨年11月に57歳の若さで突然この世を去った。彼女のプロフィールを見たら、なんと生前は最大180キロの肥満体であった。これが心臓に過度の負担となり死期を早めたのかもしれない。以前から彼女のオペラ歌手として音楽性にはその巨体から醸し出される天真爛漫な人間性とともに注目していただけにその急逝は残念でならない。

動画で2010年3月銀座博品館のコンサートで「千の風になって」を歌っているのを見つけた。5年前であるが往年の力感溢れる歌唱は衰えて弱々しさが見られるのは残念だ。この曲は、やはり発売されているCDや音楽配信でベストの状態で聴くのはいいが、動画でもその情感を込めて切々と歌う彼女の音楽性は失われていない。もしかしてこれは彼女が死を意識して友人やファンのために捧げた「白鳥の歌」かもしれない。

彼女の一生は必ずしも幸せであったといえない。幼い頃は父親の暴力に苦しめられ母親とともに逃げ惑ったという。彼女が成人になってオペラ歌手としての栄光をつかもうとするときにもこの父親は彼女につきまとい、無心を強要する有様だ。彼女の肥満症は実生活でのストレスの反映かもしれない。

中島啓江の存在を自分が初めて知ったのは、テレビ深夜の「いかすバンド天国」(1989年~90年)というアマチュアバンドのオーでション番組に審査員として出演したときだった。彼女はどんなバンドの演奏にも批判めいたコメントはせず、優しい言葉で激励していたのを今でも思い出す。当時見た目は「ふっくらとしたお姉さん」というイメージしかなかったが、私生活にめげず明るさを忘れないことを若い音楽家たちにメッセージとして訴えていたことだろう。

あの巨体には悲しみと溢れんばかりの涙が詰まっている。しかし、よき友だちとかけがえのないファンに囲まれ、彼らのために歌い続ける喜びもいっぱいだったろう。だから、彼女が歌っている姿がまるで天女のように美しくみえる。そして、今や、まさに天女になって下界を優しく見守ってくれているように思えてくる。

♪千の風に 千の風になって

あの大きな空を 吹きわたっています

秋には光になって 畑にふりそそぐ

冬はダイヤのように きらめく雪になる

朝は鳥になって あなたを目覚めさせる

夜は星になって あなたを見守る



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