先週NHKの朝ドラ「マッサン」を見ていたら、バックに「埴生の宿」が流れてきた。原語の英語で女性のソプラノ歌手が唱っていたが、とても清らかで美しく聴き惚れてしまった。このドラマからすると原曲はスコットランド民謡かとも思ったが、調べてみるとイングランド民謡であった。
「埴生の宿」は、自分自身には学校で唱われる有名な唱歌の一つという印象しかなかったが、改めて聴いてみると曲の魅力を思い知った。英語ではHome! Sweet Homeで素敵な我が家という意味になるが、日本語では「埴生の宿」といかにも古い文語調になる。これも訳詞され出版されたのが1889年というから仕方がないのかもしれない。
そのため歌詞は原詩をある程度反映しているが、最初は堅苦しく感じて取っ付きにくいかもしれない。しかし、幾度となく聴き返すと、とても簡潔で分りやすい。それというのも情景が鮮やかに描かれているからだ。
1 埴生(はにふ/はにゅう)の宿も我が宿玉の装ひ羨(うらや)まじ
長閑也(のどかなり)や春の空花はあるじ鳥は友
おゝ我が宿よたのしともたのもしや
2 書(ふみ)読む窓も我が窓瑠璃(るり)の床も羨まじ
清らなりや秋の夜半(よは/よわ)月はあるじむしは友
おゝ我が窓よたのしともたのもしや
例えば1番の最初に「埴生の宿」(土にむしろを敷くようなみすぼらしい家)というタイトルの言葉がでてくる。こんな家でも「玉の装い」(宝石をちりばめたような立派な家)を羨ましく思うこともなく楽しいと唱う。春には家の周りに花が自分の主人のように咲き誇り、鳥が友のように楽しくさえずってくれるから。「埴生の宿、春の空、花、鳥」と春を彩るものが次々描かれ、その様子が「長閑也」という感嘆の言葉になる。
2番はそっくり1番の対句になっていてそのコンストラストが見事だ。すなわち、「書を読む窓、秋の夜半、月、虫」から「清ろなり」となる。そして1番2番とも最後は「たのしともたのもしや」(楽しく心なごむことよ)と我が家への讃歌となる。
ウィキペディアによれば、戦前から国民生活になじんでいたため、戦時中も埴生の宿のレコードは「敵性レコード」として破棄されることもなく、今日でも日本の歌百選の一つになっているという。ネットでこの曲の動画を探すとすぐに日本語「埴生の宿」の独唱とイギリスのグロスター大聖堂での合唱で気に入ったものが見つかった。いずれも清らかで美しい、しかもそこはかとなく優しく暖かい。
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