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粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

青木理氏のコメントに異議有り

2014-05-21 20:17:51 | 煽りの達人

今週の「美味しんぼ特集」に「トリ」で登場しているジャーナリスト青木理氏。漫画掲載の是非を巡っていかにも反原発論者らしい見解を述べているが、率直にいってどうも首を傾げるばかりだ。青木氏の主張を要約すれば以下の通りだ。

 

1、メディアの批判は過剰で問題がある。今回は鼻血のシーンをことさら取り上げ言葉尻をあげつっている。これでは正当な批評にならない。

2、大手新聞も一部短絡的な批判の声を拡大し煽動している。結果的に表現の幅を狭め、自分で自分の首を絞めるような行為をしている。

3、過去の雁屋哲氏の作品を読めば風評被害や不当な偏見に苦言を呈するシーンもあった。メディアは様々な説や意見を取り上げ、検証する務めがあり、正当な作品批評は作品全体を読んだ上で行なわれるべきだ。

4、未曾有の巨大人災が撒き散らした原発事故の悪影響を脇に置き、表現だけを批判するのは、ただの言葉狩りに過ぎない。

 

要は鼻血と被曝の関係ばかりに焦点が当てられ、漫画が過剰な批判を受けている。大手新聞も便乗してそれを煽っている。原作者は過去の作品で福島の現状に配慮する姿勢を示したことがあった。そうしたことも勘案してメディアはもっと多面的に考えるべきだ。そもそも原発事故そのものが元凶だ。――といったところだ。

確かにメディアでは特に鼻血と被曝ことが当初話題になった。ただ問題の核心部分はそんな鼻血のことだけではなかった。双葉町前町長や福島大学准教授の口から発せられた「福島には住めない」といった生命に関わる深刻な決めつけだ。そしてそれが全く科学的根拠に乏しいのに「福島の真実」と結論づける強引さだ。敢えていわせてもらえば、「結論ありき」の悪質な政治的プロパガンダといってよい。

ただこうした手厳しい批判をしているメディアは多くない。読売新聞や産経新聞といった保守的なごく一部の新聞のみだ。朝日新聞、毎日新聞、東京新聞などはむしろこの漫画の趣旨に理解を示す論調さえ見られる。青木氏が「大手新聞」と言及しているが、朝日新聞などは「大手」ではないのだろうか。

青木氏は原作者が福島の人々に配慮して風評被害を糾すシーンも描いたことがあるとして「作品全体」で多面的に理解すべきと主張している。しかし、そんな過去ではなく、今回の連載にまず着目するのは当然だ。残念ながら漫画の中に風評被害を糾すようなシーンは皆目見られなかった。

「綿密の取材」と編集部は強調しているが、漫画の内容は全く真逆である。抗議した双葉町や福島県庁も抗議文の最後にその点に言及している。「双葉町に事前の取材がなく、一方的な見解のみを掲載した…」(双葉町)「…丁寧かつ綿密に取材・調査された上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とされますよう、強く申し入れます。」(福島県庁)まさに美味しんぼ問題の本質が何かを物語っている。ジャーナリストの青木氏自身が「メディアに様々な説や意見を取り上げ、検証する務めもある」と述べているがそれも空しく響いてくる。

最後に反原発論者がまるで「常套句」のように発する「全ての元凶は原発事故そのもの」という言い分だ。彼らはこのフレーズに甘えてはいけないと思う。確かに一理あるが、事故当時その危険性を煽って国民特に福島県民の心に恐怖心を植え付けた反原発論者の責任は大きいと思う。いまだ福島の若い女性には子どもが産めないと本気で悩んでいる人がいる位だ。むしろ事故そのものよりもこうした反原発論者の無責任な発言の方が罪は重いと考えている。青木氏がそれほど過激だと思わないが、その片棒を担いだことは否定できない。


風評被害を算定してみた

2014-05-18 15:41:41 | 煽りの達人

漫画「美味しんぼ」に実名で登場する荒木田岳福島大学准教授。漫画の中で「福島は取り返しがつかない」とか「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんてできない」など問題発言をしたことに大学側が反応した。中井勝己学長名で「荒木田氏個人の見解で、福島大の見解ではない」としたうえで、「多方面に迷惑、心配をかけて遺憾。大学人の立場を理解して発言するよう、教職員に注意喚起していく」とした。(読売新聞5月13日)

ただ朝日新聞の記事では、「大学職員への強い抑制効果をもたらす」こととの「懸念」が出ているとしている。つまり、大学職員の言論の自由が損なわれると朝日は言いたい訳で暗に荒木田発言を擁護したい意図があるように思える。

大学教授の発言のうち原発関連で思い出すのは、2011年12月早川由起夫群馬大学教授のツイッターによる「オウム発言」がある。「セシウムまみれの干し草を与えて毒牛をつくる行為も、セシウムまみれの水田で毒米をつくる行為も、サリンを作ったオウム信者と同じ」などと度々問題のある発言をした。大学はその度に教授に注意してきたが、聞き入れられないために最終的に訓告処分をした。

注意しただけで朝日新聞などが騒ぐ今回と早川教授の処分は対照的だ。これまでのブログで書いてきたように荒木田発言は作中とはいえ、福島県民の生存に関わる問題であり決して看過できず、その影響は計り知れない。深刻な風評被害をもたらしかねない。

そこで荒木田発言と早川発言についてその風評被害の度合いを自分が5月15日で紹介した数式を元に計算してみたい。当然ながら自分自身が私的に考案したもので、公的に容認されているわけではなく、早い話が独断と偏見の類いだ。STAP細胞と同じ?そんなわけないか!

Aは発言の「悪質指数」数値は0以上10以下。なかなか評価は難しいが、これは二つの発言でこの後具体的に考えてみよう。

Eは発言がもたらす「影響力」だ。数値はやはり0以上10以下。これは2種類ある。ひとつは発言者が持っている社会的影響度すなわちその人の知名度や知的評価。もう一つは発言を発した媒体の波及力、たとえばツイッターであればその人の持つフォロワー数。雑誌であれば部数だ。ただこれも量だけでなく質が問題だ。発言が伝播してもインパクトをどれだけ与えられるかが問題だ。たとえばツイッターでフォロワーがさらにリツイートして拡散していくか。雑誌ならば読者のみならず他のメディアが紹介したり社会的反響を呼んだりするかどうかだ。

そしてHは「風評被害係数」だ。事象によっては風評被害を超えてはっきりした「被害」になりうる。Hは風評さらに被害の両方と考えてよい。数値は0以上1000以下となる。算出されたHはその数値の大きさによりその度合いを5ランクに区分しておく。

ランク1――0から50未満。風評被害かどうかその評価ができないほど軽微だ。

ランク2――50以上200未満。明らかに風評被害が認められるが、一時的なバッシングにとどまり訴訟沙汰にはならない。

ランク3――200以上500未満。風評被害がより顕著になり、裁判のことも話題になり始めるが、名誉毀損の民事が主流だ。

ランク4――500以上800未満。重大な風評被害であり、目に見える被害となり訴訟沙汰になる。刑事告発が現実となる。

ランク5――800以上1000以下。極めて深刻な被害を生み社会的にも国を揺るがす大事件となる。

そこで具体例として先の発言を考えてみたい。まず、早川発言だ。Aはその内容からしてかなり悪質と言ってよい。「サリンを作ったオウム信者」など全く容認できない。いくら反原発論者であってもこれを擁護する人はいないはずだ。したがってA=10と敢えてしたい。

ただ影響力だが、火山学者で放射能のフォールアウトを調査して「早川マップ」なる汚染マップを作成したのは評価できる。しかし、食品の汚染に関する知識は素人同然で判断の基準も外部被曝と内部被曝をごっちゃにする初歩的なミスをしている。そこから短絡的に汚染米と決めつけ、さらにオウムと結びつけるに至っては発言の軽さを暴露したばかりかその人間性にも疑問符がついてしまう。

したがって発言の重みはなくツイッターでさほどインパクトを与えたようにもみえない。「わけのわからないおっさんがつぶやいている」というふうに。かれの現在のフォロワーが44,000程度というのがそれを物語っている。あのデマや捏造で定評がある?上杉隆氏が28万以上、岩上安身氏が約12万8千という数字と比べたら遥かに見劣りする。したがって早川発言の影響力はE=4といったところだ。

次に荒木田発言だ。まず悪質指数だが、見方によっては早川氏以上に深刻だ。人の生存にかかわるからだ。しかし、表現方法が早川氏ほど露骨ではなく一見ソフトだ。早川氏にはいきなりナイフで迫るような攻撃性があるが、こちらはどちらかというと真綿で首を絞めるような感じだ。そして彼は作品の人物の発言として一つクッションがはいる。関与が間接的であり、本人の意志が曖昧になっている。その点では悪質指数はA=7あたりになりそうだ。

そして、影響力だが、この美味しんぼ騒動がついには首相を巻き込む社会問題になっているから既に最高値といってよいが、これも彼自身が直接伝播に関与したわけではない。いわば映画に登場する俳優のようなもの(役者の力はあるが)で本人の影響力というのも割り引かなければならない。したがって影響力もE=7といった感じだ。

以上の評価から二人の発言の風評被害度を算出しよう。

 

早川発言:10×4の2乗=160(ランク2)

荒木田発言:7×7の2乗=343(ランク3)

 

したがって、荒木田准教授は早川教授の2倍以上となる。早川発言が当日のニュースで話題になった程度ですぐに立ち消えになった。しかし、荒木田発言は現在もずっと尾を引いている。その点で荒木田准教授への評価は少し手緩いという気もする。人によってはランク4にいれてもよいと思っている人は少なくないのではないか。大学からの注意ぐらいで一部マスコミの横やりが入る状況では情けなく本当にいかがなものかと思う。

ついでに今回の騒動でやり玉に上がった他の人物も風評被害度を算出してみよう。まず原作者の雁屋哲氏だ。彼は言うまでもなく直接意図的に引き起こした張本人だ。悪質指数は10にしたいのだが、漫画という創作で多少はオブラートに包んでいるのでA=9、 影響力はこれだけ大騒動になっているのでE=10、したがってH=900。井戸川克隆双葉町前町長は荒木田准教授と評価をほとんど一緒でH=343となるが、鼻血発言も加わるのでもっと上になるかもしれない。ともかく今回の騒動はまさに「美味しんぼ事件」と呼んでいいし、事件の中心人物が誰であるかはいまさらいうまでもない。


美味しんぼ人民裁判

2014-05-12 17:09:03 | 煽りの達人

本日12日の発売日、早速問題の漫画雑誌「ビッグコミックスピリッツ」を購入した。この「美味しんぼ」を一読して、敢えていうならこれは正に漫画を使った「人民裁判」だと思った。裁判官は原作者、そして検察も原作者、検察側証人が井戸川双葉町前町長、荒木田福島大学准教授ら、被告人は東電と国、さらには福島県民だ。驚くことに被告人証人は存在せず被告にも何ら証言をする機会が与えられていない。

検察と裁判官が一人二役で、その証人も検察の意向に忠実な人物だ。これでは「判決」も結論ありきでしかない。国、東電の犯罪は極悪罪だ。そして福島県民は被害者でありながら、「県外への流刑」となる。判決理由は「汚染が酷くて福島に住めない」ということになる。次回の連載があるから、この判決を受けて「控訴」ができるかどうか定かではない。しかし、これまでの漫画の展開を見るとそれも極めて困難だ。

ところで漫画の内容を分析すると、前号同様ストーリーの1ページと最終ページに原作者の意図や戦略が象徴されている。前号の最後で井戸川前町長が「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけす。」と語っているが、1ページではその「駄目出し」になっている。「私が思うに鼻血が出たりひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被曝したからですよ」と敢えて断言させる。

前号の結論が今週号で否定されたり、疑問が提示されたりするのではないかという「読者の淡い期待」をあざ笑うかのような始まりである。そしてこの断言の勢いをかりて、大阪での震災がれきの広域処理に話題が移る。「(1000人の周辺住民中)鼻血、眼、のどなどに不快な症状を訴えた人が約800もあった」と前町長と同行した岐阜の医師に語らせている。

こうした「危険証言」がその後の物語の基調となっているが次第にエスカレートする。その後も、陰湿にもみえる「井戸川節」が続くが、最後は福島の除染作業効果に否定的な福島大学荒木田准教授を登場させる。その間この二人や主人公たちを通じて「福島に住めない」「福島に住んではいけない」といった言葉が何度も繰り返される。

そして最終ページで荒木田准教授が「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんてできないと私は思います。」と吐露するやはりこれには凄みがある。ちょうど前号の最後で井戸川町長の「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだす。」といった言葉と同様、どこか闇夜から響くような不気味さだ。主人公たちがこの言葉に凍りついたのも前回と同じだ。山岡の父親である海原に「これが福島の真実なのだ」といわせるところが、今回のポイントであり、物語の一つのピークを迎えたといえる。つまり原作者の原発危険、放射能恐いといった反原発思想が全開する。

今週号を読めば編集部が前回で弁解したような「綿密な取材」など微塵もみられず、姑息な言い逃れにしか思えない。原作者自身の思想信条による結論ありきの結末でしかない。また本人にとって都合のよい人物だけを登場させて一方的に証言させるばかりで公平性や科学根拠を欠いている。結果は独断と偏見と差別に満ちた「福島の真実」という名の人民裁判だ。

1ページ目

 

最終ページ

 

 

美味しんぼ騒動で思い出す武田教授の過去

2014-05-11 21:21:55 | 煽りの達人

漫画「美味しんぼ」の原作者である雁屋哲氏は自身のブログで「当然ある程度の反発は折り込み済みだったが、ここまで騒ぎになるとは思わなかった。と書いている。

事実、昨年も彼は同様に、原発事故に関する漫画で風評被害を招きかねない作品を出していたが、特別な非難はなかった。今回の騒ぎに時代の流れを感じる。すなわち被曝の危険性をことさら強調することが適切ではなく、却って危険だという世間の空気が醸成されてきているということだ。

自分自身、今回の反応とは対照的な過去の事例を思い出す。あの武田邦彦中部大学教授が2011年9月のテレビ番組で発言した内容についてだ。司会者が「東北の野菜とか牛肉を食べたら僕らはどうなるの?」とたずねると、武田教授は「(東北の食材は)健康を壊す。我々の宝の日本の子どもの健康を壊すことは絶対にやってはいけない」と語り、会場をどよめかせた、ことがあった。(2011年9月7日「ニコニコニュース」より」

当然東北の産地からこの発言に対して非難がでる。特にテレビで地名を教授に名指しされた岩手県一関市の市長が武田教授に抗議メールを送った。しかし、武田教授はこれに謝罪するどころか自身のブログでその正当性を主張している。さらに驚いたことは、抗議した一関市長に対して批判のメールが殺到したのだ。全国から届いた100を超えるメールのうち市長の支持はごくわずかであり、武田擁護が圧倒的だったという。

今回の騒動と比較すれば、小学館に抗議した双葉町に全国から非難が殺到するようなものであり、当時の世情が反原発の異常な空気に包まれていたことがわかる。武田教授はもっともらしい屁理屈を述べているが、そもそも広い東北をひとくくりに捉えていること自体が間違いであることは明白だ。科学者の見解としてはあまりにも稚拙というしかない。事実その年の際京都大学の調査によっても福島の食事でさえ内部被曝が微々たるものであることが証明されている。

しかし、当時武田教授の言説が広く支持されて風評被害助長という非難は反原発の嵐の前にかき消された。考えてみれば、今回の鼻血より、教授の発言の方が悪質ともいえる。「東北の食材を捨てろ」とまで断言しているのだ。

企業の啓発活動に取り組む開米端浩氏がブログで今回の美味しんぼ騒動は刑法の「信頼毀損および業務妨害罪に関する規定」に抵触する可能性があることを指摘している。

【刑法 第233条】
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

「虚偽の風説」「業務妨害」などを考えれば武田教授の発言こそ、この法律に見事に合致しているのではないか。

しかし、その後も武田教授の暴走は止まらない。特に福島に対しては何か恨みがあるのかと思われるほどに福島攻撃を執拗に繰り返している。福島の被曝状況はとても住める状況にないと県外非難を度々煽動している。地元の祭りや駅伝までも中止を呼びかける。もちろん福島米に対しても汚染されていて、生産農家が「攻撃の矛先を消費者に向けている」と犯罪者呼ばわりする有様だ。

さすがに一部福島の業関係議員が教授の講演会に乗り込んで抗議したようで、教授はその体験をブログで恨みがましく綴っている。もちろん自分の発言に反省など微塵もない。これもこれまで教授を支持する一定の勢力があり、一部の反原発メディアが後方支援しているためだ。

しかし、既に原発事故も3年経ち、被曝の真相が明らかになり、教授の主張する被曝への過剰な忌避がほとんど虚偽であることが明らかになりつつある。それを教授は察知したのか、最近は放射能の危険性どころか原発そのものにも言及することもほとんどなくなった。教授は刑法第233条の重大性を聞きつけたのかも知れない。3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金…。

 

追記:自分はどうも武田教授を甘くみていたようだ。小生のブログに呼応するかのように?教授がブログで突然この美味しんぼの話題を取りあげた。「悪人が善人をバッシングする」として雁屋擁護の戦闘モードだ。この美味しんぼ騒動への教授の参戦は、戦況を変えるのか、それとも自爆であえなく討ち死にするのか?


「美味しんぼ」を読んで

2014-04-30 15:12:35 | 煽りの達人

コミック雑誌の最近号に掲載された漫画「美味しんぼ」の内容が福島の風評被害を招くとして雑誌社に厳しい批判が集中している。主人公の山岡らが福島第一原発を取材に出かけて東京に戻ってから原因不明の鼻血が止まらない。医師は原発事故の関連を否定するが、山岡は被曝の不安を捨て去ることができないでいる。

しかし、この内容に対して、多くの学者が鼻血は被爆とは関係なく、こうした表現は福島の人々に心の負担になり偏見や差別をおこしかねないと批判的であり、読者からも厳しい意見が続出している。

自分自身も早速、この雑誌を購入して読んでみたが、特徴的だったのはこの漫画の1ページと最終ページだ。物語の始まりは昨年4月、福島第一原発を取材する直前、山岡が勤務する新聞社内での会話から始まる。安部首相が原発再稼働の方針を明言する新聞記事を読んで女性社員が疑問の言葉を発する。「これだけ国土を破壊し膨大な経済損出をこうむっても原発を続けるのはなぜ…」

おそらく、この疑問が作者雁屋哲氏の原発事故に対する認識であるに違いない。人類に厄害をもたらすだけの原発は許すまじ、の気持ちが強いようだ。

そして最終ページ、鼻血の不安が抜けないまま、実在する人物に対面する。福島県双葉町井戸川前町長だ。原発事故以来この前町長はその言動が物議をかもしたが、漫画の最後が彼の言葉で締めくくられている。

「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけす。」

物語の途中、山岡が銀座の病院で医者から福島の事故との関連はないといわれる。しかし、最後は井戸川前町長の言葉が重く山岡の心にのしかかるというストリー展開になっている。最後の一コマでは前町長の言葉に山岡や同僚たちが凍り付く様子が描かれている。特に右側のメガネの親父さんはそれこそ恐怖におののいた表情をしている。まるで前町長の声が闇夜から響いてくるがごとく。

「原発許すまじ」の女性社員の言葉に始まって、最後は「恐怖に呆然とする主人公たち」で終わる。乱暴な言い方だがこれが自分の漫画を読んだ印象だ。連載物なので今後の展開次第で印象は変わるかもしれないが、雁屋氏の意図するところは、どうみても「反原発」そのもののように思える。

雑誌の編集部は読者からの厳しい反響に対して「綿密な取材に基づき、作者の表現を尊重して掲載した」と発表している。しかし、取材先の重心が「井戸川前町長」などであるとしたら、問題が多過ぎる。この前町長、事故以来福島から埼玉に町民を避難させたまま、原発の危険を絶えず唱え続けるばかりだった。帰還を模索し続ける周辺の自治体からも孤立し、最後は身内の双葉議会からも不信任を突きつけられた。

どうも井戸川前町長の発言を見ると被曝の不安を過剰に意識して自治体の長としてはどうにも首を傾げてしまう。最近でも「福島では多くの方が心臓発作で急死している」と発言している。そんな事実は実際報道で聞いたことがない。医者でもない井戸川前町長は何を根拠にこんな重大発言をするのか疑問だらけだ。おろらく、「福島では同じ症状(鼻血)の人が大勢います、」という発言もこれに類したものではないか。

雑誌編集長のいう「綿密な取材」の本質が「井戸川前町長の鼻血発言」をさすのなら何をかいわんやである。それこそ「風評被害」以外の何ものでもない。この雑誌の版元は小学館であるが、原発事故当時は同社の週刊ポストが週刊新潮とともに極めて科学的で論理的な言説を冷静に報道した。あの小学館の栄光はどこにいったのか。そういえば偏見と差別の絵本「みえないばくだん」も小学館発行である。大手出版社だから、部署によって原発事故に対する方針や認識が違うということなのか。

「美味しんぼ」1ページ

 

「美味しんぼ」最終ページ