粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

美味しんぼ人民裁判

2014-05-12 17:09:03 | 煽りの達人

本日12日の発売日、早速問題の漫画雑誌「ビッグコミックスピリッツ」を購入した。この「美味しんぼ」を一読して、敢えていうならこれは正に漫画を使った「人民裁判」だと思った。裁判官は原作者、そして検察も原作者、検察側証人が井戸川双葉町前町長、荒木田福島大学准教授ら、被告人は東電と国、さらには福島県民だ。驚くことに被告人証人は存在せず被告にも何ら証言をする機会が与えられていない。

検察と裁判官が一人二役で、その証人も検察の意向に忠実な人物だ。これでは「判決」も結論ありきでしかない。国、東電の犯罪は極悪罪だ。そして福島県民は被害者でありながら、「県外への流刑」となる。判決理由は「汚染が酷くて福島に住めない」ということになる。次回の連載があるから、この判決を受けて「控訴」ができるかどうか定かではない。しかし、これまでの漫画の展開を見るとそれも極めて困難だ。

ところで漫画の内容を分析すると、前号同様ストーリーの1ページと最終ページに原作者の意図や戦略が象徴されている。前号の最後で井戸川前町長が「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけす。」と語っているが、1ページではその「駄目出し」になっている。「私が思うに鼻血が出たりひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被曝したからですよ」と敢えて断言させる。

前号の結論が今週号で否定されたり、疑問が提示されたりするのではないかという「読者の淡い期待」をあざ笑うかのような始まりである。そしてこの断言の勢いをかりて、大阪での震災がれきの広域処理に話題が移る。「(1000人の周辺住民中)鼻血、眼、のどなどに不快な症状を訴えた人が約800もあった」と前町長と同行した岐阜の医師に語らせている。

こうした「危険証言」がその後の物語の基調となっているが次第にエスカレートする。その後も、陰湿にもみえる「井戸川節」が続くが、最後は福島の除染作業効果に否定的な福島大学荒木田准教授を登場させる。その間この二人や主人公たちを通じて「福島に住めない」「福島に住んではいけない」といった言葉が何度も繰り返される。

そして最終ページで荒木田准教授が「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんてできないと私は思います。」と吐露するやはりこれには凄みがある。ちょうど前号の最後で井戸川町長の「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだす。」といった言葉と同様、どこか闇夜から響くような不気味さだ。主人公たちがこの言葉に凍りついたのも前回と同じだ。山岡の父親である海原に「これが福島の真実なのだ」といわせるところが、今回のポイントであり、物語の一つのピークを迎えたといえる。つまり原作者の原発危険、放射能恐いといった反原発思想が全開する。

今週号を読めば編集部が前回で弁解したような「綿密な取材」など微塵もみられず、姑息な言い逃れにしか思えない。原作者自身の思想信条による結論ありきの結末でしかない。また本人にとって都合のよい人物だけを登場させて一方的に証言させるばかりで公平性や科学根拠を欠いている。結果は独断と偏見と差別に満ちた「福島の真実」という名の人民裁判だ。

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