今日も週刊新潮関連だ。正直言って今の週刊誌では新潮がもっとも「マトモ」で読み応えがある。今度は原発事故を扱った絵本についてだ。題して「福島差別を醸し出す絵本『みえないばくだん』作者の人類愛」
ある主婦が書いた問題の絵本は、「原発事故で被曝した少女が20年経って女児を生む。しかしその女児は病気を抱えて苦しむ。」という内容だ。ただ原発とか放射能とかは明記せず「べんりになるもの」とか「みえないばくだん」などとぼかしている。
そのこがしょうがくせいになったとき、
おじいちゃんとおばあちゃんにききました。
きょうね、がいこくのおともだちが
あなたがびょうきなのは、あなたのくにが
『みえないばくだん』をまいたからなのだよ、っていわれたの。
わたしはびょうきでうまれてきたの?
『みえないばくだん』はまだあるの?
ネットでその絵本のことが紹介されていないか検索してみたら、なんと絵本を動画にしたものがあった。原文の文字が清冽なピアノ演奏とともに次々と流れていく。同時に背後のメルヘンチックな絵画も変化していく。いかにも見た目は子供向けの純粋な絵本という感じがする。
しかし正直読むに耐えられない偏見に満ちた絵本だと感じた。文中に「(主人公が)ちょっと手がかわっている」とあるのは奇形児を連想させる。つまり「子供たちが被曝すると彼らが成長したときに、遺伝してその子供が奇形児で生まれたり、病気になったりする」ということが強調されている。
だが新潮では、東京女子医科大学放射線腫瘍学講座の三橋紀夫主任教授の証言を通して「勘違いもいいところ」としている。
「そもそも今回の事故で(胎児に危険とされている)100ミリシーベルト以上の被曝をした妊婦さんはいません。絵本では事故当時に子供だった女児が20年後に病気の子供を産むという設定になっていますが、胎児のときに被曝していなければ、それが原因で奇形などの病気になることはないのです。広島と長崎の原爆でも遺伝子の突然変異による健康被害は報告されていません」
この件に関しては池田信夫氏もブログで同様の指摘をしている。自分もこれには全く同感だ。過去に広島・長崎はおろかチェルノブイリの事故に至までこんな事例は聞いたことがないからだ。
こうした偏見はいわれなき差別を生む。記事の後半でいわき市在住で2人の子供を持つ女性市議福嶋あずささんのコメントが掲載されている。
「わたしたちは(身体が)放射能で汚染されているわけではないのです。それでも他県の方から『近寄らないで』という態度をとられたり、赤ちゃんを産むことを躊躇したという声もある。そんな時にお母さんたちがこの本のことを知ったら本当に悲しいと思うんですよね」
事故後の福島差別はそれだけに留まらない。極端な話だが、福島女性との結婚が相手方の親の反対で破談になったり、妊娠した当地の女性が中絶をしたということも報告されている。問題の絵本は、悪質なデマに基づいており、こんなやりきれない差別を助長するものだといっていい。
新潮が「作者の人類愛」と記しているのは、痛烈な皮肉だ。きれいな薔薇には刺がある。しかもその刺は猛毒だったりする。絵本としての、本来人間のもつ純粋な真心の表現が歪曲されている。考えようによっては、煽りを繰り返す学者やジャーナリストよりたちが悪いかもしれない。人の深奥にある童心に忍び込んで人間性を歪める恐さがある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/b8/04a292925799e5749f7a74eac04843b3.jpg)
作画を担当した方がブログで「・・・議論の中で、この作品に触れてくださった方々が何かを考え、いよいよ行動を起こすきっかけとなれば・・・」とコメントされていますが、行動を起こす方々が「原発をなくさないと、みえない爆弾がまかれて、その子が大きくなったとき、お手てが変わった形の赤ちゃんが生まれます」なんて訴えていたら興ざめです。