粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

「美味しんぼ」を読んで

2014-04-30 15:12:35 | 煽りの達人

コミック雑誌の最近号に掲載された漫画「美味しんぼ」の内容が福島の風評被害を招くとして雑誌社に厳しい批判が集中している。主人公の山岡らが福島第一原発を取材に出かけて東京に戻ってから原因不明の鼻血が止まらない。医師は原発事故の関連を否定するが、山岡は被曝の不安を捨て去ることができないでいる。

しかし、この内容に対して、多くの学者が鼻血は被爆とは関係なく、こうした表現は福島の人々に心の負担になり偏見や差別をおこしかねないと批判的であり、読者からも厳しい意見が続出している。

自分自身も早速、この雑誌を購入して読んでみたが、特徴的だったのはこの漫画の1ページと最終ページだ。物語の始まりは昨年4月、福島第一原発を取材する直前、山岡が勤務する新聞社内での会話から始まる。安部首相が原発再稼働の方針を明言する新聞記事を読んで女性社員が疑問の言葉を発する。「これだけ国土を破壊し膨大な経済損出をこうむっても原発を続けるのはなぜ…」

おそらく、この疑問が作者雁屋哲氏の原発事故に対する認識であるに違いない。人類に厄害をもたらすだけの原発は許すまじ、の気持ちが強いようだ。

そして最終ページ、鼻血の不安が抜けないまま、実在する人物に対面する。福島県双葉町井戸川前町長だ。原発事故以来この前町長はその言動が物議をかもしたが、漫画の最後が彼の言葉で締めくくられている。

「私も鼻血が出ます」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけす。」

物語の途中、山岡が銀座の病院で医者から福島の事故との関連はないといわれる。しかし、最後は井戸川前町長の言葉が重く山岡の心にのしかかるというストリー展開になっている。最後の一コマでは前町長の言葉に山岡や同僚たちが凍り付く様子が描かれている。特に右側のメガネの親父さんはそれこそ恐怖におののいた表情をしている。まるで前町長の声が闇夜から響いてくるがごとく。

「原発許すまじ」の女性社員の言葉に始まって、最後は「恐怖に呆然とする主人公たち」で終わる。乱暴な言い方だがこれが自分の漫画を読んだ印象だ。連載物なので今後の展開次第で印象は変わるかもしれないが、雁屋氏の意図するところは、どうみても「反原発」そのもののように思える。

雑誌の編集部は読者からの厳しい反響に対して「綿密な取材に基づき、作者の表現を尊重して掲載した」と発表している。しかし、取材先の重心が「井戸川前町長」などであるとしたら、問題が多過ぎる。この前町長、事故以来福島から埼玉に町民を避難させたまま、原発の危険を絶えず唱え続けるばかりだった。帰還を模索し続ける周辺の自治体からも孤立し、最後は身内の双葉議会からも不信任を突きつけられた。

どうも井戸川前町長の発言を見ると被曝の不安を過剰に意識して自治体の長としてはどうにも首を傾げてしまう。最近でも「福島では多くの方が心臓発作で急死している」と発言している。そんな事実は実際報道で聞いたことがない。医者でもない井戸川前町長は何を根拠にこんな重大発言をするのか疑問だらけだ。おろらく、「福島では同じ症状(鼻血)の人が大勢います、」という発言もこれに類したものではないか。

雑誌編集長のいう「綿密な取材」の本質が「井戸川前町長の鼻血発言」をさすのなら何をかいわんやである。それこそ「風評被害」以外の何ものでもない。この雑誌の版元は小学館であるが、原発事故当時は同社の週刊ポストが週刊新潮とともに極めて科学的で論理的な言説を冷静に報道した。あの小学館の栄光はどこにいったのか。そういえば偏見と差別の絵本「みえないばくだん」も小学館発行である。大手出版社だから、部署によって原発事故に対する方針や認識が違うということなのか。

「美味しんぼ」1ページ

 

「美味しんぼ」最終ページ

 

 

 

 

 


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