変容を欲せよ。おお 炎に魅せられて在れ、
その炎のなかで物は 誇りやかに変容しつつ おまえから去ってゆく。
地上のものを支配しているあの構想する精神は、
昂揚した図形の曲線の 何よりもその転回点を愛する。
身を閉ざして留まろうとするものはすでに硬直した存在だ。
目立たぬ灰色の保護のもとで それは自分の身が安全だと思いこんでいるのか?
待て、もっとも硬いものが遠くから硬いものを警めている。
おお 不在の槌が振りあげられている!
泉となって自らを注ぐ者、彼を認識は認知する。
そしてそれは陶然と彼をみちびくのだ、しばしば開始とともに終わり
終局とともに始まるはれやかな創造物のあいだを。
すべての幸福な空間は別離の子か孫であり、
その空間を人びとは驚嘆しつつ通り抜ける。そして変容したダフネは
自らを月桂樹と感じていらい願っているのだ、おまえが風に変じることを。
(田口義弘訳)
これは手を焼く詩編ですねぇ。1連は「炎」、2連は「土」、3連は「水」、4連は「風」について書かれているのですが、連から連への意識の流れと展開の時に、渡る架け橋が見えにくい。
さらに、過去のソネットと重複するテーマがそこここに見え隠れするのですが、この「第二部・12」のソネットに与えようとしたテーマには、過去からの変容を試みているようです。
ギリシャ神話の「ダフネ」は「河の神」の娘。彼女はキューピットに「人を嫌う矢」を受けて、「アポロン」は「恋の矢」を受ける。そのために「ダフネ」は「アポロン」に恋されてしまうのだが、「ダフネ」はそれを拒み続け、逃げまどい、最後に父親に助けを乞うと、父親は娘を「月桂樹」に変身させて「アポロン」の手から守る。「アポロン」はその樹の枝を頭に飾り、悲恋の思い出とする。
この神話は、3連の「水」に「河の神」、4連の「風」に「ダフネ」と関連付けていいのだろうか?
おまえが風に変じることを。
この「おまえ」はリルケではないか?
変容を欲せよ。おお 炎に魅せられて在れ、
その炎のなかで物は 誇りやかに変容しつつ おまえから去ってゆく。
地上のものを支配しているあの構想する精神は、
昂揚した図形の曲線の 何よりもその転回点を愛する。
この1連を読むと思い出す「速水御舟」の絵画がある。