ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

悲しみからはじまる

2015-07-30 16:38:10 | Word



線の千束    高田昭子


初夏の夕暮空は薄あかく 
線描きのような白い雲が流れている
時間はゆっくりと
夜の地平線に降りてゆく

哀しみはあの雲のような細い線
日々のなかで
それは少しずつ殖えて
見えない手が束ねてゆく

ひとたちから愛されること
ひとたちを愛すること
「生きた」ということはこれだけのもので
それでも抱えきれないものとなる

愛の細い線は時間のなかで絡まる
切るか 切られるか 
目には見えないものに
刃物をあてる危険を冒すこともある

哀しみは
わたくしの閉じた目のなかで
いとおしくたなびく線の千束
今夜も夢のなかでひっそりと機を織っている



映画『世界の果ての通学路』

2015-07-29 16:10:45 | Movie
映画『世界の果ての通学路』予告編




世界の果ての通学路・オフィシャルサイト

監督:パスカル・プリッソン



「私たちは、どんな地球を子供たちに残してやれるだろうかとよく考える。
 だが、私たちは地球にどんな子供たちを残してゆくのだろう。」
   
    ピエール・ラビ(農業従事者 作家 思想家)

愛しい星(1991年1月16日に。)  高田昭子

2015-07-28 12:58:49 | Poem



   愛しい星    

   午後の暖かい日だまりで
   わたしの子供がまどろんでいるとき
   君の国では明るい月が高くのぼり
   あなたの国では朝餉を囲んでいるだろう
   ――時は途方に暮れている

   いま わたしの国をあたためている太陽は
   君の国からめぐってきた
   そしてやがてあなたの国へ朝を届けるだろう
   ――時がひそかに立ち上がり
     武器を手にする気配がする

   太陽が一日をかけてめぐってゆく
   この小さな星のわたしたちの時間が凍えてゆく

   愛よ 
   あまりにもひ弱な愛よ
   さあ立って! はやく!

   この星には
   戦争と正義を一つの箱に入れて
   一羽の白い鳩に変えてみせる
   魔術師たちがいる

   わたしたちが
   その魔法にかけられる前に
   愛よ 


      (1991年1月16日に。)



    * 高田昭子詩集「河辺の家・1998年・思潮社刊」より。

東京藝術大学大学美術館 ヘレン・シャルフベック

2015-07-19 22:05:05 | Art
東京藝術大学大学美術館 ヘレン・シャルフベック




東京藝術大学大学美術館 ヘレン・シャルフベック




ヘレン・シャルフベック 回復期






NHKの「日曜美術館」で、初めてこの女性画家の名前を知った。
名前のみならず、即刻「観たい」と思い、7月15日、藝大美術館へ。
フィンランドの女性画家ということも私を惹きつける。

詳細はこちらをご覧下さい。

3歳の事故がもとで、杖を使わなくては歩けないという生涯だった。
また、人生2度の「婚約破棄」という不幸もあり、孤独な生涯であったようだ。
その人生の陰影を感じさせながらも、決して暗いだけの絵画ではなかった。


才能はもちろんのこと、彼女の絵画に対する情熱と謙虚な探究心が作品を実らせた。
さらに年齢を重ねるごとに、絵画は命に迫ってゆく。
自画像の変遷に、それをはっきりと観られると思います。




また、ジェームズ・マクニール・ホイッスラーの「母の肖像」を思い浮かばせる絵がありましたが、調べた結果、やはり影響を受けていました。



 《ホイッスラー 母の肖像》



 《ヘレン お針子(働く女性)》


彼女自身が、1人で生きてゆかねばならない人生だった。
その生き方が様々な女性を描くことになったのだろうか?
素晴らしい女性像が数多く観られました。




言葉のたまり場  大野新

2015-07-14 14:24:37 | Poem

黒田三郎はのどの奥を癌にやられた
高見順はもうすこし下がって食道だった
言葉のたまり場を灼かれた 
火の断崖(きりぎし)だった

いま前の座席でおさなごが目をあける
うるんで半睡
水の精になっている
まだ言葉が回復していない
鬱血のぬるぬるした
夢ののどに
まだ言葉がめざめていない

梅を観ての帰り
一輪の声が言葉のたまり場でぬるんでいる


   詩集『続・家』 より。


やわらかな湿気を帯びた小さな生命体。水の精。
言葉を語り出す前のおさなごの喉元には、
これから生まれる言葉がうっとりと眠っている。
それから人間はいのちのきりぎしまで、たくさんの言葉を生きて、
またおさなごのようにことばのない世界へ帰るのですね。



「一輪の声」という表現にうっとりしてしまいます。
言葉はこのように美しく開花するものだと改めて考えさせられます。

季節が合わないようですが、忘れないうちに書いておきます。



1928年1月1日、朝鮮全羅北道群山府(現、韓国群山市)生まれ。
2010年4月4日、逝去。

命の仕事 女性の生き方

2015-07-08 00:25:22 | Word


出産と子育てと家事と仕事の両立。
仕事をしながら老親介護、看取りを全うすること。

どう考えたところで、どれにも無理がある。
政策や民間委託に期待できる部分はほんのわずかだろう。

政府や税金、民間施設が子育ても老親介護もしてくれない。
とりあえず、決められた場所と時間内で、やや安全と思える場所に
子供や老人を預かるだけ。それ以上のことは期待できない。

保育所や老人施設に働く方々の就業条件があまりにもお粗末ですし。
働くお母さん、あるいは働く子供(老親の)たちだって、
いつでも時間との勝負みたいな日々に追われているだけだ。

「命に関わる仕事を自らの手で行う力」
これに気付くことができないほどに、多忙を極めている人たち。
この流れは変えることができるだろうか?

これは、森田真生氏への反論ではない。
森田氏のこの言葉は「原点」なのだ。


ネジバナ

2015-07-01 11:53:20 | Stroll


この季節になると、群生する花ですが、その場所が年毎に代わります。

小さな野の花ですが、出会うと嬉しい花です。
花序が螺旋状に咲き登ってゆきますので、このような名前です。
時々「螺旋」を理解していない花もいたりして(笑)。

またの名を「モジズリ」とも。