Poem&Poem

詩作品

季節

2022年08月14日 23時26分56秒 | My poem



季節      高田昭子


年上の旧友が入院先から連絡を下さる
「無理して来なくてもいいわ。
 退院してから会いましょう。」とおっしゃる
季節しばらくして
「退院しました。今後はリハビリに通います。
 涼しくなったら会いましょう。」と

私は電車に乗って
遠いところまで会いにゆくことはできる
そう思いつつも 時は過ぎてゆく
友への励ましの言葉をまだ探している

その間に
やさしかった叔父が亡くなり
息子が短い入院をした

昨夜は
何十年も会っていない
仕事仲間の死の知らせが届いた
知らせて下さった友は「私は元気よ」と言い
私も「とりあえず元気です」と伝える

死がゆっくりとからだに寄り添ってくる
でもまだ生きているみたい
多くの人々の血が
流されているこの地上で

父母の死んだ年齢までは まだ時間があるが
死んだ父親の年齢を超えた男は
し「きりに死を口にするようになったが
はるか先だろう

「死」については何もわからないが
「生きる」こともわからないことだらけ
「死」は確実に来る。

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海は冷たい   高田昭子

2022年06月15日 23時09分20秒 | My poem


海は冷たい        

まだ海は冷たい
女は季節を切り裂いて飛び込む
豊かな肉体の沈みきらぬ一瞬に
女の両足裏は一尾となった

舟の上では男は命綱を握る
女のわずかな合図に男は綱を引く
水面に豊かな収穫が浮かんでくる 
女の体は海の浮力から
地上の重力に従う
船縁を掴む女の手を
男が無口に引き上げる

女は海の底を彷徨う
揺れ揺れる いのちの舟べりで
男は今日も無口に待っている

夜に眠ると胸に闇の錘が降りてくるから
女はからだを横向きにして 
男の夢の不寝番をしている

潮騒は休むことなく
窓辺に届く
塩辛い夜気に包囲されたまま
ひたひたと海辺の夜は深くなる

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短歌 三首

2022年05月31日 00時40分10秒 | My poem


電線に雀の整列はじまって空赤々と帰宅の知らせ

病む夫と共に生きる日厨より法師蝉の声永々と聴く

死にかけた引揚児も年老いて未だ世界に戦争はある

ゆずり葉

2022年04月13日 22時06分13秒 | My poem



交譲木(ゆずりは)    高田昭子


交譲木は色づく前に
枝打ちをされて
空が明るい

放っておいても
新しい葉が成長してから
去年の葉は落葉するのに
(だから交譲木)

その代々の命の引き継ぎを
刃物が狂わせる(急がせる)

その樹の下で
病む者は「長くないだろう・・・・・・・。」と呟く
看る者は「長い日々が続くだろう。」と
秘かに思う

ひとの命の時間は誰にもわからない
わかることは
あの樹よりも短いということだけ

生まれ出る者へ
やがて生きる場を譲る日がくる
確かなことは「譲る」ということだけ

(130)


夜明けの村    高田昭子

2022年02月23日 20時53分03秒 | My poem


夜明けの村     


空が明るんできた
山々はまだ暗い
山頂付近の残雪だけが
光に応えている

人々は静かに一日をはじめる
牛と羊が
若緑の草原に放たれる
犬が走り 猫が見守る

黄色の通学バスがゆっくりと走り
子供達を次々に乗せてゆく
帰宅すれば優しい母たちが
クッキーを焼いて待っている

都会に出た若者が帰ってきた
坂道を上り 坂道を下り
人々は変わらずに働く
彼はその緩やかな時の流れに
再び漕ぎ出してゆく

雪が溶けて
緑がまぶしく萌えだす頃
村は青い呼吸を始める

牛や羊の児が産まれる
その命の湯気の白さ

キッチンはいつも
女の手で磨かれていた

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