帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

「小倉百人一首」 (番外) 女たちの歌 余情妖艶なる奥義

2016-03-13 19:43:00 | 古典

             



                  「小倉百人一首」 女たちの歌の余情妖艶なる奥義



 女歌だけの妖艶なる余情を鑑賞する。清げな姿は略す……女たちの本音を聞きましょう。それは、今の人々にとっても「心におかしい」はずである。


 
 ○持統天皇

春過ぎて夏きにけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山

(……春の情過ぎて、なつ・泥む時、来たにちがいない、白絶えの、おとこの・身と心、ほすという、あまの色香の久しい山ばよ)

「衣…心身を被うもの…心身の換喩…身と心」「ほす…干す…乾かす…空にする…(飲み)ほす…し尽くす」「天香具山…天香久山…山の名、名は戯れる。あまの色香久しき山ば」「あま…天…女」

夏用の衣、晒して干してあると聞く、これにて、宮人全員の衣更えが出来る。縫殿・染殿の女官たちよ、よく頑張ったねえ、さすが、山ば久しき、女の持続力。男どもには及びもつきませんよ()


 ○小野小町

 花の色はうつりにけりないたづらに わが身よにふるながめせしまに

(……お花の色情は衰えてしまったのねえ、かいもなく我が身夜にふる、もの思いに耽ろうとした・ふり長めようとした、間なのに)

 「花…草花…女花…木の花…男花…おとこ花」。


 ○伊勢

難波潟みじかき葦のふしの間も あはでこのよを過ぐしてよとや

(……何は堅、短い伏している間も、合わずに、この夜を過ごして居れと、おっしゃるの ?

 「難波潟…難波津の干潟…土地の名…名は戯れる。何は方、何にのあれ、何は堅」「あし…葦…脚…肢」「ふしの間…節と節の間…伏しの間…貴身の折れ伏している間」「葦、薄、稲などの言の心は男」「あはで…逢わずに…合わずに…合体せず…和合せず」「よ…世…男女の仲…夜」「てよ…〔つ〕の命令形…してしまえ」「とや…疑問の意を表す、詠嘆の意を含む」。


 ○右近

 わすらるる身をばおもはずちかひてし 人の命のをしくもあるかな

(……和合することのできる身をば、思いも・思わず違えてしまった、あの人の命・身おの短い命、愛おしくもあることよ)

「わすらるる…忘れられてしまった…見捨てられてしまっている…和すられる…和合することができる」。


 ○右大将道綱母

 嘆きつつひとりぬる夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る

(……無げ気、筒、独り濡れる夜の明ける間は、井かに、久しきものとかは、しるや・きみ)

「なげき…嘆き…溜息…悲嘆…無げ気」「つつ…継続を表す…筒…中空」「ぬる…寝る…濡る…袖が濡れる…(身のそでが)濡れる」。


 ○儀同三司母

 忘れじの行く末まではかたければ 今日を限りの命ともがな

(……見捨てないが、逝く末までは、難しいのならば、京を限りの・絶頂を限りの、和合の・命、共に果てたいの)

「忘れ…忘却…見捨てる…見限る」「見…結婚…覯…媾…まぐあい」「じ…打消しを表す…ない」「今日…けふ…京…山の頂上…山ばの頂点」。

 
 ○和泉式部 

あらざらむこの世のほかの思ひでに いまひとたびの逢ふこともがな

(……在りはしないでしよう・けど、この夜の、ほかの・別の夜とかの、思い出のために、井間、一度の合うこと叶えたいの)

「よ…世…夜」「逢ふ…あふ…合う…まぐあい…和合」「もがな…願望を表す」。



 万葉集の時代から平安時代を通じて、人の心根を「清げな姿」に寄せて又は「清げに包んで」表現する文芸を持っていたのである。言葉の意味が聞く人の耳により異なるという言語観で、多様な意味を持つ厄介な言葉を逆手にとって、複数の意味を一首の歌に表現する、高度な表現様式であった。

 国文学的な解釈は、歌の「清げな姿」を解くことから一歩も出られない。意味が希薄に思えると、解釈者の憶見を加えるという奇妙な方法である。

「小倉百人一首」の百首中、女性の歌は二十首ある。今日はこれくらいに……。