帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集巻第四 恋雑(二百七と二百八)

2012-07-17 00:25:14 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第四 恋雑 百六十首
(二百七と二百八)


 吉野川岩なみ高くゆく水の はやくぞ人を思ひそめてし 
                                    
(二百七)

(吉野川、岩波高く流れ行く水のように、早くもひとを思い初めてしまったよ……好しのかは、井端波高く逝くをみな、はやくもひとを、思いの色に染めてしまったよ)。


 言の戯れと言の心

 「よしのかは…吉野川…川の名…名は戯れる。吉のかは、良しのかは、好しのかは」「川…女」「かは…疑問を表す」「いはなみ…岩波…井端波…女波」「いは…岩…女…井端…女」「なみ…波…心波…汝身」「ゆく…行く…逝く」「水…女」「人…女」「そめ…初め…染め」「し…強意を表す」。


 古今和歌集恋歌一 題しらず。


 歌の清げな姿は、早速、激しくひとを思い初めてしまった。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、はやくも心波高く山ばの京へ逝ったひと、男の満足感。



 世の中にふりぬるものは津の国の 長柄の橋とわれとなりけり 
                                    
(二百八)

 (世の中に経て古くなってしまったものは、津の国の長柄の橋と我とだなあ……夜の仲に、振り経たる物は、津のくにの長らの端と、我とだなあ)。


 言の戯れと言の心

 「世の中…男女の仲…夜の仲…夜の中」「ふりぬる…経てしまった…古くなってしまった…振りを完了した」「津の国…難波の国…津のくに…女のせかい」「津…女」「長柄の橋…橋の名…名は戯れる。古い橋、長い橋、ながらえる端」「はし…端…身の端」「と…何々と何々と…並列の意を表す…とともに…と同じく」。


 古今和歌集 雑歌上、題しらず、よみ人しらず。


 歌の清げな姿は、年齢を重ねてきた男の感慨。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、女の長がらの端と並列してみせた、男のおとこ自慢。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。