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帯とけの新撰和歌集
歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿のみならず、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生々しい心情が顕れる。
紀貫之 新撰和歌集 巻第四 恋雑 百六十首 (二百七と二百八)
吉野川岩なみ高くゆく水の はやくぞ人を思ひそめてし
(二百七)
(吉野川、岩波高く流れ行く水のように、早くもひとを思い初めてしまったよ……好しのかは、井端波高く逝くをみな、はやくもひとを、思いの色に染めてしまったよ)。
言の戯れと言の心
「よしのかは…吉野川…川の名…名は戯れる。吉のかは、良しのかは、好しのかは」「川…女」「かは…疑問を表す」「いはなみ…岩波…井端波…女波」「いは…岩…女…井端…女」「なみ…波…心波…汝身」「ゆく…行く…逝く」「水…女」「人…女」「そめ…初め…染め」「し…強意を表す」。
古今和歌集恋歌一 題しらず。
歌の清げな姿は、早速、激しくひとを思い初めてしまった。歌は唯それだけではない。
歌の心におかしきところは、はやくも心波高く山ばの京へ逝ったひと、男の満足感。
世の中にふりぬるものは津の国の 長柄の橋とわれとなりけり
(二百八)
(世の中に経て古くなってしまったものは、津の国の長柄の橋と我とだなあ……夜の仲に、振り経たる物は、津のくにの長らの端と、我とだなあ)。
言の戯れと言の心
「世の中…男女の仲…夜の仲…夜の中」「ふりぬる…経てしまった…古くなってしまった…振りを完了した」「津の国…難波の国…津のくに…女のせかい」「津…女」「長柄の橋…橋の名…名は戯れる。古い橋、長い橋、ながらえる端」「はし…端…身の端」「と…何々と何々と…並列の意を表す…とともに…と同じく」。
古今和歌集 雑歌上、題しらず、よみ人しらず。
歌の清げな姿は、年齢を重ねてきた男の感慨。歌は唯それだけではない。
歌の心におかしきところは、女の長がらの端と並列してみせた、男のおとこ自慢。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。