意思表示の到達 |
① 遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。 ↓ ② しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには法律上、遺留分殺によるほかない。遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。 |
最判平成10年6月11日 百選25事件
・まず、遺産分割協議の申入れに、遺留分減殺請求の意思表示が含まれているかが問題となった。
→ 遺留分減殺請求権は形成権なので明確な意思表示が要求されるべきである。遺産分割協議の申入れは形成権ではないし、物権的な効果も認められていないとい。つまり両者は法的性質が異なる。
・次に、内容証明郵便が受取人不在のために留置期間経過後に返送された場合でも、意思表示が到達したと言えるかが問題となった。
→ 「隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる」
→ 郵便そのものは返送されているので、支配圏内にあるとは言えないが、他方で、不在配達通知書により郵便が送付されたことは認識できるし、改めて受領することもできる、という特殊性がある。下級審事例では、送達ありとするものが多数のようである。
・本件では、時効の中断が問題となっている。催告による時効の中断の場合は、催告が中断事由とされた趣旨、その効果が暫定的なものであることに鑑み、催告の到達は緩やかに認定して良いとの説がある(=意思表示の類型に応じた考察である)。
→ 本件では催告事例ではなく、形成権が行使されているが、遺留分減殺請求権に関する時効の中断が問題となっており、その意味において緩やかに認定する方向性は肯定できよう。
・相手方が故意に受領を拒んでいるような場合には、130条の類推適用で到達を擬制すべきとの説もある。