扇子と手拭い

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痛み、おくびに出さず

2015-03-01 23:48:18 | 落語
▼肩を3か所骨折
 人形町で落語を聴いた。十一代桂文治の独演会。48歳の師匠が肩を骨折した。三角巾が取れたばかりだが、いつものように高座を務め、客席を笑いで包んだ。痛みをおくびにも出さず、最後まで演じ切った師匠に、会場からひときわ大きな拍手が沸き起こった。本物のプロである。

 落語仲間からの「文治休演」の知らせで事態を知った。師匠に電話で確かめたところ、「1月29日の地元の落語会で右肩を骨折した」。大事ない、と言っていたが、2月28日の独演会で改めて、「階段を踏み外して肩の骨を3か所折った」と聞き、仰天した。

▼悔しい1か月の空白
 やっと三角巾が取れたので、数日前から高座に上がっているそうだ。落語が好きで、好きでたまらない師匠だけに、1か月の空白は悔しくて仕方がなかっただろう。

 一席終えるといったん高座を降り、楽屋で衣を整えて再び高座に上がる。それがこの日は座布団に正座したまま、二席目を話し出した。立ち上がる際、両手で身体を支える時に肩に痛みが走るという。だから、できるだけ痛む機会を減らした。

▼閣僚疑惑も巧みに導入
 一席目は師匠のオハコである名作「源平盛衰記」を披露した。昨今の閣僚疑惑など時事ネタを巧みに取り入れ、随所で笑いを誘った。客席が沸くに従って噺にも熱が入り、「本当に、師匠は肩の骨を折ったのだろうか」と目を疑う熱演だった。二席目の「義眼」が終わった。師匠はゆっくり高座から降りた。

 中入りの後、三席目は「替り目」。飲んだくれの亭主が、日ごろ、かみさんに無理難題を言って困らせる。この夜も酔って帰ってきた亭主が車屋をからかい、家で「まだ飲みたい」と駄々をこねる。かみさんは「しょーがないねホントに」と座を外す。

▼落語解説のサービスも
 亭主は「口じゃああんなことを言ってるが、心の中じゃあ、いつも感謝している」とつい、本音を漏らす。酒のつまみを買いに行った、とばかり思っていたかみさんが、「お前さん。今言ったこと、本当かい?」―。この愉快な噺を文治師匠は表情豊かに演じた。

 師匠はけがで十分な話が出来なかったと、この後に落語の解説をしてくれた。中でも印象に残ったのは「落語は体の内でやってはいけない」との話。落語をやるあたしにとっては、肝に銘じる貴重なアドバイスだった。

▼二段目でしたから・・・
 文治師匠は「七段目から落ちていたらオチになったんですが、二段目でしたからなりませんでした」と言って笑わせた。「落ち」たが、「オチ」はつかなかった。

 どんな時でもファンサービスを忘れない師匠。これが本当のプロである。

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*編注
「七段目」とは落語にある演目。
 芝居(歌舞伎)好きのおおたなの若旦那が、商いそっちのけで芝居に熱中するあまり、丁稚の定吉めがけて本物の日本刀を振りかざし、追いかけてきた。

 慌てて逃げ出した定吉が、足を滑らせて階段から転げ落ちる。そこへ大旦那がやって来て、「また、あの馬鹿といっしょに二階で芝居ごっこをして、てっぺんから落ちたか」と言うと、定吉が「いいえ、七段目です」と答えた。

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