永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1152)

2012年09月11日 | Weblog
2012. 9/11    1152

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その60

「むつかしき反古など破りて、おどろおどろしくひとたびにもしたためず、灯台の火に焼き、水に投げ入れさせなど、やうやう失ふ。心知らぬ御達は、ものへわたり給ふべければ、つれづれなる月日を経て、はかなくし集め給へる手習ひなどを、破り給ふなめり、と思ふ」
――(浮舟は)後あと問題になるような文殻(ふみがら)などを破って、それも人目につくように一度に仕末などはせず、少しずつ灯台の火で焼いたり、水に投げ入れさせたりして、だんだんと身の廻りを片付けています。事情を知らぬ女房たちは、薫に引きとられて京にお移りになるについては、今までのつれづれな月日の間に、何とはなしにお書き集めになったお文などを、処分していらっしゃるのだろうと思っているのでした――

「侍従などぞ、見つくる時に、『などかくはせさせ給ふ。あはれなる御中に、心とどめて書きかはし給へる文は、人にこそ見せさせ給はざらめ、ものの底に置かせ給ひて御覧ずるなむ、程々につけては、いとあはれに侍る。さばかりめでたき御紙つかひ、かたじけなき御言の葉をつくさせ給へるを、かくのみ破らせ給ふ、なさけなきこと』と言ふ」
――侍従などが、それを見つけて、「なぜ、そのような事をなさるのですか。愛し合う間柄で、念を入れてお書き交わしになった御文は、他人にこそはお見せにならないでも、手箱の奥深くにでも納めてお置きになって、折々に御覧なさいますのが、身分身分に応じて、とても身に沁む感じのものでございます。それほど結構な御料紙を持ちいられ、勿体ないお言葉の限りを尽くされたものを、こうしてお破りになるなんて、まあ、心ないこと!」と言うのでした――

「『何か、むつかしく、長かるまじき身にこそあめれ。おちとどまりて、人の御ためもいとほしからむ。さかしらにこれを取り置きけむよ、など、漏り聞き給はむこそはづかしけれ』などのたまふ」
――(浮舟は)「何の、私はどうせ厄介な長生きしそうにない身ですもの。死後にこのような文殻が残っては、あの御方(匂宮)のためにもお気の毒でしょう。生意気にもこんな物を大事にして置いたのか、などと、薫の君がお知りになあるようなことがありましては、それこそ恥かしいことです」などとおっしゃいます――

「心細きことを思ひもてゆくには、またえ思ひ立つまじきわざなりけり。親をおきて亡くなる人は、いと罪深かなるものを、など、さすがに、ほの聞きたることをも思ふ」
――心細いことをつぎつぎ思っていきますと、自分から身を失うことなどは、やはりニ度と決心しかねるのでした。親を後にしてあの世へ先立つ者は、とりわけ罪が深いというのに、などと、さすがにほのかに聞いた事を思い出しもするのでした――

「二十日あまりにもなりぬ。かの家あるじ、二十八日に下るべし。宮は、『その夜かならず迎へむ。下人などに、よくけしき見ゆまじき心づかひし給へ。こなたざまよりは、ゆめにも聞こえあるまじ。うたがひ給ふな』などのたまふ」
――三月二十日すぎにもなりました。あの家の主じ(匂宮に家を貸す約束をした受領)は、二十八日に任地に下る予定なのでした。匂宮からは、「その日の夜は必ず迎えに行く。下人などに気取られぬよう、よく注意してください。私の方からは決して漏れるようなことはない、お疑いなさるな」などと仰せられるのでした――

では9/13に。


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