永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1073)

2012年02月21日 | Weblog
2012. 2/21     1073

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(44)

「乳母車乞いて、常陸殿へ往ぬ。北の方にかうかうといへば、胸つぶれ騒ぎて、人も怪しからぬ様に言ひ思ふらむ、正身もいかがおぼすべき、かかる筋の物にくみは貴人もなきものなり、と、おのが心ならひに、あわただしく思ひなりて、夕つ方参りぬ」
――乳母は、二条院のお車をお借りして、常陸の守の邸に行き、北の方にこうこうのことがありました、と話しますと、ひどく驚いてあわてて、あちらの女房たちも、さぞ怪しからぬことと思っていよう、中の君御自身もどうお思いでしょう、このような嫉妬は貴人も下々も変わりはないのだからと、自分のいつもの考えから推して、いたたまれぬ気持ちでそそくさと、夕方参上しました――

「宮おはしまさねば心安くて、『あやしく心幼げなる人を参らせ置きて、後やすくは頼みきこえさせながら、鼬の侍らむやうなる心地のし侍れば、よからぬものどもに、憎みうらみられ侍る』ときこゆ」
――匂宮がおいでにならなかったのでほっとして、中の君に、「どうかと思われるような、幼い娘をお預けして、これで安心と、ただひたすら頼み申し上げましたものの、鼬(いたち)のように落ち着かずにおりました。家におりましてもあの娘が心配で、出来の悪い他の子供たちには恨まれております」と申し上げます――

「『いとさ言ふばかりの幼さにはあらざめるを、うしろめたげにけしきばみたる御まかげこそ、わづらはしけれ』とて笑ひ給へるが、心はずかしげなる御まみを見るも、心の鬼にはづかしくぞ覚ゆる。いかに思すらむ、と思へば、えもうち出できこえず」
――(中の君が)「浮舟はあなたがおっしゃるほど幼げには見えません。御心配でしょうが、そのように不安そうに意味ありげなお疑いでは、お預かりした甲斐がありませんわ」と言ってお笑いになります。こちらが気後れするほどに澄んだ中の君の御目許を拝見するにつけても、北の方は気が咎めてなりません。昨夜のことを、どう思っていらっしゃるだろうかと思うと、ものも言い出せません――

「かくて侍ひ給はば、年ごろの願ひの満つ心地して、人の漏り聞き侍らむもめやすく、おもだたしきことになむ思ひ給ふるを、さすがにつつましきことになむ侍りける。深き山の本意は、みさをになむ侍るべきを」
――こうして浮舟があなた様にお仕えなさるならば、年来の願いが叶う心地がいたしまして、誰が聞き洩らしても恥かしいどころか、たいそう光栄なことと存じますが、やはり御遠慮申すべき事でございました。出家して山深く籠ろうとする初心は固く守って変わらぬ筈ですもの――

 と言いながら泣いているのも気の毒で、中の君は、

「ここには、何ごとかうしろめたく覚え給ふべき。とてもかくても、うとうとしく思ひ放ちきこえばこそあらめ、怪しからずだちてよからぬ人の、時々ものし給ふめれど、その心を皆人知りためれば、心づかひして、びんなうはもてなしきこえじ、と思ふを、いかにおしはかり給ふにか」
――ここに居て、何がそんなにご心配なのでしょう。あれこれと私が浮舟を疎々しくお構いもしないと言いますならとにかく、とんでもない心を起して困った人(匂宮)が、時折りお出でになりますが、その辺の事は誰もみな心得ておりますから、具合の悪いようにはおさせしますまいと思いますものを、どうしてまた、そのようにご心配なさるのですか――

 とおっしゃいます。

◆御まかげ=まかげ=鼬(いたち)が目の上に手をかざして逡巡、猜疑すること。

では2/23に。

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