永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(369)

2009年04月27日 | Weblog
09.4/27   369回

三十二帖【梅枝(うめがえ)の巻】 その(8)

 源氏は、たくさんの人々に、筆も墨も紙も惜しみなく差し上げられて、依頼文を添えて、思い思いに書いて下さるようにお願いなさっております。ご自分ももちろん寝殿にお籠りになって、古歌などを草仮名などで、心ゆくまでこの上なく美しくお書きになります。

 蛍兵部卿の宮は、ご自邸のお手本をお取り寄せになって、源氏にお見せになります。

「嵯峨の帝の、古万葉集を選び書かせ給へる四巻、延喜の帝の、古今和歌集を、唐の浅縹の紙をつぎて、おなじ色の濃き紋の、綺の表紙、同じ玉の軸など」
――嵯峨の帝が古万葉集の中から選んでお書きになった四巻、延喜の帝が古今和歌集を、唐の浅縹(あさはなだ)の紙を継いで、おなじ色の濃い文様のある唐の綺の表紙、縹色の玉の軸など――

 源氏は、大殿油を近くにお寄せになって、これらの書物をご覧になりながら、

「つきせぬものかな。この頃の人は、ただかたそばを気色ばむにこそありけれ」
――古人の筆跡は趣深く興味のつきないものですね。この頃の人はただその一部を真似するにすぎないのですね――

 と、しみじみ眺め入っておられます。蛍兵部卿の宮は、

「女子などを持て侍らましだに、をさをさ見はやすまじきには、伝ふまじきを、まして朽ちぬべきを」
――私は娘を持っていませんが(娘がいたとしても)、ろくに鑑賞もできない者には譲るべきではないと思っておりますし、このまま朽ちらせてしまいますのも何ですので――

 と、この万葉集と古今和歌集をそのまま、源氏に贈られました。源氏はお礼として、唐の手本などのたいそう心を用いて書いたものを、沈の箱にお入れになって、立派な高麗笛を添えて、お使いの侍従の君にお贈りなさいました。

 さらに、この頃の源氏は、ひたすら仮名の品定めをなさって、今の世で能書家と評判の人を身分を問わず探し出し、それぞれにふさわしい物をお書かせになって、入内の準備へと急いでおります。

 内大臣は、

「この御いそぎを、人の上にて聞き給ふも、いみじう心もとなく、さうざうしと思す」
――(源氏が)明石の姫君入内のご用意をされているご様子を、他人事に聞かれるにつけても、(雲井の雁)を思って、ひどく不安な淋しい心地でいらっしゃいます――

ではまた。

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