永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(863)

2010年12月07日 | Weblog
2010.12/7  863

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(40)

「その夜も、かのしるべ誘ひ給へど、『冷泉院に必ずさぶらふべきこと侍れば』とて、とまり給ひぬ。例の、ことに触れてすさまじげに世をもてなす、と、にくくおぼす」
――(匂宮は)この夜も、あの道案内者の薫を宇治に一緒にとお誘いになりますが、
薫は「冷泉院にどうしても伺候せねばなりませんので」とお断りになりました。またいつものとおり、何かと言えば色恋には無関心な風を装っていることよ、と、匂宮は憎らしくお思いになります――

 さて、山里では、

「いかがはせむ、本意ならざりし事とて、おろかにやは、と思ひ弱り給ひて、御しつらひなどうちあはぬ住処のさまなれど、さる方にをかしくしなして、待ちきこえ給ひけり。
遥かなる御中道を、急ぎおはしましたりけるも、うれしきわざなるぞ、かつはあやしき」
――(大君はお心の中で)今更どうしたものか、こちらの望み(薫を中の君に)でなかった事だからといって、いい加減にあしらってはよい訳はない、と、お心も崩折れそうになりながらも、(結婚の)御設備など万事整わない御住居ながら、それなりに風流な山家風に調えて、匂宮をお待ち申し上げております。やがて、匂宮がはるばる遠い道中を急いでいらっしゃったのも、今度は大君には嬉しい気持ちになられたとは、考えれば妙なことですこと――

「正身はわれにもあらぬさまにて、繕はれ奉り給ふままに、濃き御衣の袖のいたくぬるれば、さかし人もうち泣きつつ」
――当の、中の君は、われにもあらぬご様子で、姉君が何かとご衣裳のお支度をされるのにお任せになって、濃い紅のお召し物の袖が涙でしっとりぬれていらっしゃるので、気丈な大君もつい涙をさそわれて――

 しみじみと中の君におっしゃいます。

「世の中に久しくもと覚え侍らねば、明け暮れのながめにも、ただ御事をのみなむ心ぐるしう思ひきこゆるに、(……)はかばかしくもあらぬ心一つを立てて、かくてのみやは見奉らむ、と思ひなるやうもありしかど、ただ今かく、思ひもあへず、はづかしき事どもにみだれ思ふべくは、さらに思ひかけ侍らざりしに、これやげに人の言ふめる、のがれ難き御契りなりけむ」
――私は長からぬ命と思い諦めておりますが、それにつけても朝夕の物思いにも、ただあなたの行く末の事ばかりを気懸りに思ってきたのです。(この頃では女房たちが「良い御縁ですのに」などと口うるさくそそのかしてきます。たしかに年とった老女たちは世知にたけてはいるでしょう)世なれぬ私一人の狭い心から、いつまでもあなたに一人身を通させてよかろうか、と考えるようになりました。けれどもまさか、今すぐにこんな辛いことになろうとは、思ってもいませんでした。これが本当に人の言う逃れ難い宿世というものなのでしょう――

◆正身(さうじみ)=当人、ここでは中の君

◆さかし人=賢し人=しっかりしている人、ここでは大君。

◆写真:、実事後の朝ぼらけを見る匂宮と中の君

では12/9に。


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