永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(894)

2011年02月09日 | Weblog
2011.2/9  894

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(71)

 さて、この薫のお供で来ていた人で、何時の間にかここの若い侍女を手に入れた者がおりました。二人が睦み合いの話の中で、

「かの宮の、御しのびありき制せられ給ひて、内裏にのみ籠りおはしますこと。左の大臣殿の姫君を、あはせ奉り給ふべかなるを、女方は年頃の御本意なれば、おぼしとどこほることなくて、年の内にありぬべかなり。宮はしぶしぶにおぼして、内裏わたりにも、ただ好きがましき事に御心を入れて、帝后の御いましめに静まり給ふべくもあらざめり」
――匂宮が忍び歩きを禁止されなさって、宮中に留め置かれていらっしゃいますこと。夕霧左大臣の姫君を北の方におすすめ申されるとかいうことですが、姫君方では以前からのご希望なので、躊躇なく年内にご婚儀があるらしいです。匂宮はお気に染まぬらしく、御所でも好色がまししことにばかりに熱を上げられ、帝や后のご意見でもおさまりそうにないご様子とか――

「わが殿こそ、なほあやしく人に似給はず、あまりまめにおはしまして、人にはもてなやまれ給へ。ここにかく渡り給ふのみなむ、目のあやに、おぼろげならぬ事、と人申す」
――そこへいくと、わが主君(薫)こそ、不思議にも世間の男とはちがって真面目すぎて、人から厄介がられておられるほどのお方です。こうしてこちらへお通いになるのも目も眩む次第で、大君へのお心は並大抵のものではないと、皆が噂をしているような訳で――

 と問わず語りに聞いたことを、その侍女が「あの人がこんなことを言っていましたよ」などと、侍女仲間で囁きあっていますのを、大君は耳にされますにつけても、いよいよ胸も張り裂ける思いでいらっしゃいます。

「今はかぎりにこそあなれ、やむごとなき方に定まり給はぬほどの、なほざりの御すさびにかくまでおぼしけむを、さすがに中納言などの思はむ所をおぼして、言の葉のかぎり深きなりけり、と思ひなし給ふに、ともかくも人の御つらさは思ひ知られず、いとど身のおきどころなき心地してしをれ臥し給へり」
――ああ、今はもうこれまでということなのか。匂宮という御方は、立派な方(夕霧の姫君)に御縁がお定まりになられぬ間の、いい加減なお慰みとして、あのように中の君を愛されたのでしょうか、それでも薫などの思惑を気になさって、お言葉だけは思い入れ深く仰ったのだと、つくづく思い知らされるのでした。それにしましても、どうしても匂宮の無情さについては納得がゆかず、大君は、いよいよ身の置きどころもないような心地がなさって、萎れて泣き伏してしまわれました――

では2/11に。


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