永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(634)

2010年01月30日 | Weblog
2010.1/30   634回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(49)

 一方、夕霧はお心の内で、

「とかく言ひなしつるも、今はあいなし、かの御こころにゆるし給はむことは、むつかしげなめり、御息所の心知りなりけりと人には知らせむ、如何はせむ、亡き人に少し浅き咎はおほせて、何時ありそめし事ぞともなく紛らはしてむ」
――あれこれ落葉宮に言い寄ってみたけれど、こういうことでは駄目だ。承知なさることは難しそうだ。御息所はご承諾だったと人前は繕うことにしよう。どうにも仕方が無い。亡くなられた御息所が少し浅はかだった事にして、落葉宮との関係がいつから始まったとも分からないように誤魔化しておこう――

「さらがへりて懸想だち、涙をつくしかかづらはむも、いとうひうひしかるべし」
――今更あらたまって口説き直したり、涙を流して付きまとうのも、若者のようでおかしいだろうし――

 と、お心を決めて、落葉宮が本邸にお帰りの日を何日と定めて、大和守を呼んで当日の作法万端を仰せつけになります。しばらく留守であった一条邸は、女ばかりで手入れも行き届かぬ草深い住家でしたのを、修理清掃して、お部屋の飾りにもお心配りをしてご用意させます。

 落葉宮が本邸にお帰りになる日は、夕霧ご自身、先に一条邸に行っておられ、ご自分の使用人を小野に遣わせて、乗り物などを差し向けます。

 落葉宮は、

「さらに渡らじと思し宣ふを、人々いみじう聞こえ」
――(宮が)ゆめゆめ京へは移るまいとの決心をおっしゃるのを、女房たちが是非にとお勧め申し上げ――

 大和守も、

「さらにうけたまはらじ。心細く悲しき御有様を見奉り歎き、この程の宮仕えは、堪ふるに従ひて仕うまつりぬ。今は、国の事も侍り、まかり下りぬべし」
――(京にお帰りにならぬなどとは)絶対に承知できるものではありません。私は貴女の心細く悲しげなご様子にご同情して、これまで出来るだけのお役に立ってまいりました。今は任国のこともあり、下向せねばなりません――

◆さらがへり=更返り=今更後戻りして

ではまた。


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