永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(930)

2011年04月23日 | Weblog
2011.4/23  930

四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(12)

 つれづれのお慰みにも、また世の憂さの慰めにも、亡き大君が、心を留めて愛でておられた紅梅だったのに……などと中の君は胸いっぱいに悲しみがこみあげてきて、

(中の君の歌)「見る人もあらしにまよふ山里にむかしおぼゆる花の香ぞする」
――見る人もなくなり、嵐に吹き迷わされるこの山荘に、昔が思い出される紅梅の香がしています――

 と言うともなく呟やかれますと、薫はいっそうなつかしく口ずさんで、

(薫の歌)「袖ふれし梅はかはらぬにほひにて根ごめうつろふ宿やことなる」
――私が袖を触れた梅は昔と同じ香りながら、その梅の木が根ごと移る先は、もう昔の宿ではないのでしょうか(ちょっとお会いしたあなたは匂宮のところに移られて、もう私には縁がなくなるのでしょうか)――

 と、堪え切れぬ涙をぬぐわれて、言葉少なに、

「またもなほ、かやうにてなむ何事もきこえさせよかるべき」
――これからもまた、このように何事も隔てなくお話申し上げとうございます――

 と、おっしゃって座を立たれました。
薫は、中の君のお引越しにあれこれと必要な事を人々に指図して置かれ、この山荘の留守番役には、あの髭がちの宿直人が残る筈ですので、近くのご自分の荘園の者たちにも、何くれとなく心づけるようになど、細々したことまで懇ろにお定めになっておかれます。

 弁の君は、

「『かやうの御供にも、思ひかけず長き命いとつらく覚え侍るを、人もゆゆしく見思ふべければ、今は世にあるものとも人に知られ侍らじ』とて、容貌もかへてけるを、しひて召し出でて、いとあはれ、と見給ふ」
――「このようなお供で京に参りますにつけましても、思いもかけぬ長生きがたいそう辛く思われますので、また人も不吉と見るでしょうから、今はもう生きているとも人から知られないようにしとうございまして」と言って、髪を切ってしまいましたのを、薫は強いて弁の君をお召し寄せになって、いたわしいとご覧になります――

◆容貌もかへてけるを=尼姿となって髪も背中位まで短く切る。

では4/25に。


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