永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(278)

2009年01月25日 | Weblog
09.1/25   278回

【常夏(とこなつ)】の巻】  その(4)

月もない頃ですので、お庭に篝火を焚かせ、ゆかしげな和琴を見つけて、引きよせながら、おっしゃるには、

「かやうの事は御心にいらぬ筋にやと、月頃思ひ貶し聞こえけるかな。(……)」
――あなたが、このような方面は、お好みにならないのかと、今まで軽くみていました。(秋の月影の涼しい折などに、虫の音と合わせて弾いているのはなかなか良いものです。)――

「ことごとしき調べもてなししどけなしや。この物よ、さながら多くの遊びものの音、拍子を整へとりたるなむいとかしこき。和琴とはかなく見せて、際もなくしおきたるものなり。広く他国の事を知らぬ女の為となむ覚ゆる。同じくは、心とどめて物などに掻き合せてならひ給へ」
――和琴というのは、改まった奏楽には砕けすぎているけれども、まるで多くの楽器の音や拍子を揃え整えたようで優れたものだ。うわべは倭琴(やまとごと)と言って、つまらないもののように見えても、実は限りなくうまく作ってあるのです。広く外国の音楽など知らない女のために作られた物だと思われます。お弾きになるなら、身を入れて他の楽器と合わせて、お稽古なさい――

 今では、和琴の弾き手では、内大臣に並ぶ者はいませんよ。いつか御父上の手によってお稽古なさったら、また格別でしょう、などとお話しになります。
玉鬘はますます父君にお逢いしたく、何時になったら弾かれるのをお聞きすることができようかと、首をかしげていらっしゃるご様子が、灯影にまことに愛らしくお見えになります。源氏は、ご自分の懸想は聞き入れない姫君に、お琴をあちらへ押しやっておしまいになりましたので、玉鬘はそんな源氏のなさり方を迷惑に思うのでした。
 今日は侍女たちも近くにおりますので、軽々しいご冗談も、戯れもおっしゃれず、(歌)、

「なでしこのとこなつかしき色を見ばもとの垣根を人やたづねむ」
――あなたの優しい姿を見られたら、父君はきっと母君の夕顔の行方を尋ねられることでしょう。――(撫子に玉鬘を擬す)

 夕顔のことを詮索される厄介さに、あなたのことを隠していることが心苦しいのです。こう、源氏がおっしゃいますので、玉鬘の返歌

「山がつの垣ほに生ひしなでしこのもとの根ざしをたれか尋ねむ」
――私のような賤しい者の母を誰が詮索などいたしましょう――

 と、心細そうにしておられる玉鬘はいっそう優美で若々しい。源氏はひとしお募る思慕の情は苦しく、やはり我慢しきれそうにもないと、お思いになります。

ではまた。


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