永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(481)

2009年08月19日 | Weblog
09.8/19   481回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(35)

「宮は何心もなく大殿籠りにけるを、近く男のけはひのすれば、院のおはすると思したるに、うちかしこまりたる気色見せて、床の下に抱きおろし奉るに、物におそはるるかと、せめて見上げ給へれば、あらぬ人なりけり」
――女三宮は、無心にすやすやとお寝みになっておられましたが、近くに男の気配がしましたので、源氏が来られたのかと思っていますと、誰やら、うやうやしくも床の下に抱いて下ろされます。恐ろしく鬼にでも襲われたのかとお見上げになりますと、鬼でもなく源氏でもなく、別の人なのでした。

「あやしく聞きも知らぬ事どもをぞ聞こゆるや。あさましくむくつけくなりて、人召せど、近くも侍はねば、聞きつけて参るもなし。わななき給ふさま、水のやうに汗も流れて、物も覚え給はぬ気色、いとあはれにらうたげなり」
――妙に怪しげで、聞いた事もないようなことを申すではありませんか。宮は呆れて気味悪くなって、侍女を呼びますが、近くにはおらず聞きつけて参る者もいません。宮は震えて恐ろしくて冷汗をおかきになり、生きた心地もせぬご様子は、まったくお気の毒としか言いようがありません――

 柏木は、

「数ならねど、いとかうしも思し召さるべき身とは、思ふ給へられずなむ。(……)」
――つまらぬ身ですが、そんなに嫌われる身とは思われません。(私は昔からあなたをお慕い申しておりました。朱雀院にも私の気持ちを奏しましたが、身分が低いということでした。仕方がないと思い返してみますが、どれほど深く沁みこんでしまった私の執念でしょうか)――

「年月に添へて、口惜しくも、つらくも、むくつけくも、あはれにも、いろいろに深く思う給へまさるに、せきかねて、かくおほけなき様をご覧ぜられぬるも、かつはいと思ひやりなくはづかしければ、罪重き心もさらに侍るまじ」
――年月の経つにつれましても、残念にも、辛くも、恐ろしくも、あわれ深くも、どれもこれも悶えが深くなり増さっていくばかりでございます。もうこらえかねまして、身の程知らずの姿をお見せしてしまいましたのも、思慮が足りなく恥ずかしいこととわきまえております故、決してこれ以上の罪を重ねることなど、ゆめゆめ思ってもおりません――

◆写真:寝所の女三宮と柏木  wakogenjiより

ではまた。

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