永子の窓

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源氏物語を読んできて(1017)

2011年10月25日 | Weblog
2011. 10/25      1017

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(78)

 帝はご心配のあまり、薫の母宮(女三宮)の御許へ勅使を賜って、その御文にもただただこの姫君のことばかり書いておありになります。

「故朱雀院の、とりわきて、この尼宮の御ことをば、きこえ置かせ給ひしかば、かく世を背き給へれど、おとろへず、何事ももとのままにて、奏せさせ給ふことなどは、必ずきこしめし入れ、御用意深かりけり」
――故朱雀院が特にこの尼宮(女三宮)の御身上をお心にかけて御遺言になりましたので、こうして出家なさって後も変わらず、何事も前々通りに、女三宮が奏上なさることは必ずお聞き届けになり、充分にご配慮されるのでした――


「かくやむごとなき御心どもに、かたみに限りもなくてもてかしづきさわがれ給ふおもだたしさも、いかなるにかあらむ、心のうちにはことにうれしくも覚えず、なほともすれば、うちながめつつ、宇治の寺つくることをいそがせ給ふ」
――このように帝と母宮との尊いお心から、この上もなく大切にされ、もてなしを受けていらっしゃる御立場ですのに、どうしたわけでしょうか、薫のお心の内は別段うれしそうでもなく、ややもすれば物思いに沈んでばかりおられ、宇治のお寺を作る事を急がせておいでになるのでした――


「宮の若君の五十日になり給ふ日数へ取りて、その餅のいそぎを心に入れて、籠物檜破籠などまで見入れ給ひつつ、世の常のなべてにはあらず、とおぼし志して、沈、紫檀、白銀、黄金など、道々の細工どもいと多く召しさぶらはせ給へば、われおとらじと、さまざまの事どもをし出づめり」
――(薫は)匂宮の若君が五十日におなりになる日を指折り数えて、そのお祝いの餅(もちい)の準備を熱心にして、籠物(こもの)、檜破籠(ひわりご)などまでご自身でお目通しになります。何事も世間並ではおもしろくないとのお考えから、沈(じん)、紫檀(したん)、白銀、黄金など、それぞれの道の細工師どもを大勢召し寄せられてお作らせになりますので、皆自分こそ負けをとるまいと、さまざまに工夫を凝らすようです――


「みづからも、例の、宮のおはしまさぬひまにおはしたり。心のなしにやあらむ、今すこし重々しくやむごとなげなるけしきさへ添ひにけりと見ゆ。今はさりとも、むつかしかりしすずろごとなどは、まぎれ給ひにたらむ、と思ふに心やすくて、対面し給へり」
――(薫は)ご自身も、いつものように匂宮がいらっしゃらない暇に、中の君をお訪ねになります。気のせいでしょうか、中の君のご様子が一段と重々しく、品格もいっそう加わったようにお見えになります。(中の君は)薫が女二の宮の御婿と定まった今はもう、あの厄介であった懸想などは忘れておしまいになられたことであろうと、安心してお逢いになるのでした――

では10/27に。


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