永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(147)その7

2016年11月04日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (147)その7  2016.11.4

「今日めづらしき消息ありつれば、『さもぞある、行き合ひては悪しからん、いと疾くものせよ。しばしはけしき見せじ、すべてありやうにしたがはん』など定めつるかひもなく、先だたれにたれば、いふかひなくてあるほどに、とばかりありて来ぬ。」
 
◆◆今日、あの人からめづらしく手紙が届いたので、「今日見えるかも知れないけれど、ああ困ったこと、かち合ってはまずいでしょう。急いで行って連れてきなさい。当分の間、このことは内緒にしておきたいの。でもすべては成り行きにまかせましょう」などと決めていた甲斐も無く、あの人の方が先に見えてしまったので、仕方がないと思っているうちに、大夫(道綱)の一行が帰ってきたのでした。◆◆



「『大夫はいづこに行きたりつるぞ』とあれば、とかう言ひ紛らはしてあり。日ごろも、かく思ひまうしかば、『身の心ぼそさに、人の捨てたる子をなん取りたる』などものし置きたれば、『いで、見ん。誰が子ぞ。我いまは老いにたりとて、若人求めて我を勘当したまへるならん』とあるに、いとをかしうなりて、『さは見せたてまつらん。御子にし給はんや』とものすれば、『いとよかなり。させん、なほなほ』とあれば、我もとういぶかしさに呼び出でたり。」

◆◆あの人が、「大夫はどこに行っていたのか」と尋ねるけれど、何とかかんとか言い紛らしておきました。かねてからこんな場合のこともあるかと思って、「心細い身の上ですので、男親の見捨てている子を迎えることにしました」などと言い置いていましたので、あの人は、「どれ、見たいものだ。いったい誰の子か。わたしが今は年取ったからといって、若い人をみつけてわたしを捨てようとするのだろう」などと言うので、可笑しくなって、「それでは、お見せ申し上げましょう。ご自分の子になさいますか」と言いますと、「それは良い。そうしよう。さあ早く見せなさい」というので、私も先ほどから気になっていましたので、呼び出しました。◆◆



「聞きつる年よりもいと小さう、いふかひなく幼げなり。近う呼びよせて、『立て』とて立てたれば、丈四尺ばかりにて、髪は落ちたるにやあらん、裾そぎたる心ちして丈に四寸ばかりぞたらぬ、いとらうたげにて、かしらつきをかしげにて様体いとあてはかなり。」

◆◆その子は聞いていた年よりもたいそう小柄で、それはそれは子ども子どもしています。近くに来させて、「立ってごらん」と立たせますと、身の丈は四尺くらいで、髪は抜け落ちのであろうか、裾の方を削いだようで、身の丈に四寸ほど足りません。とてもいじらしく髪の具合も美しく、姿かたちがたいそう上品です。◆◆

■一尺=約33センチ。 一尺は十寸

■様体(やうだい)=体つき、姿


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